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永年当社が蓄積してきた自動化を革新するための課題、問題解決への技術・研究開発の成果を技術情報としてご紹介いたします。
・ブリスター包装機における成形シミュレーション技術
・包装ラインと連続生産~コツ・ノウハウ
・新型画像検査装置
・リードリフローと両面はんだ印刷検査機
・リチウムイオン電池用巻回機の自動材料交換機構
・ダイレクトドライブアクチュエータの小型化技術
・抗菌・除菌フィルタの要素・評価技術
・土壌水分センサ技術
・薬液用バルブのボディ剛性向上技術
・CAE解析技術の精度向上に対する取り組み
このカタログについて
ドキュメント名 | 【技術資料集】CKD技報 Vol.3 (2017年) |
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ドキュメント種別 | その他 |
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登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | CKD株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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1 CKD 技報 2017 Vol.3
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目次
目次
社会に貢献する価値ある技術へ 1
ブリスター包装機における成形シミュレーション技術 2
包装ラインと連続生産~コツ・ノウハウ 8
新型画像検査装置 12
リードリフローと両面はんだ印刷検査機 17
リチウムイオン電池用巻回機の自動材料交換機構 21
ダイレクトドライブアクチュエータの小型化技術 24
抗菌・除菌フィルタの要素・評価技術 28
土壌水分センサ技術 32
薬液用バルブのボディ剛性向上技術 36
CAE CAE解析技術の精度向上に対する取り組み 39
CKD 技報 2017 Vol.3 2
Page4
Table of Contents
Technology worth contributing to society 1
New Simulation System for Blister Packaging Machine 2
Introduction of blister packaging line for continuous manufacturing
~ knack know-how 8
New Vision Inspection Machine 12
Lead reflow and the Solder Paste Inspection Machine for Double Sides 17
Automatic Material Changer for Lithium Ion Battery Winding Machine 21
Technologies Behind the Downsizing of Direct Drive Actuator 24
Key Underlying Technologies and Evaluation Techniques for
Anti-bacterial/Bacteria Removing Filters 28
Soil Moisture Sensor Technology 32
Technology Used in Improving Body Stiffness of Air-operated Valves
for Chemical Liquids 36
CAE Approaches for Improving Precision of CAE Analysis Technology 39
3 CKD 技報 2017 Vol.3
Page5
ごあいさつ
社会に貢献する価値ある技術へ
Technology worth contributing to society
西尾 竜也 Tatsuya Nishio
CKD株式会社
取締役 執行役員
CKD Corporation
Director & Executive Officer
今年度よりCKDは、10年先を見据えた新たな During this fiscal year, CKD created a medium-
中期経営計画「Challenge CKD 2018」をスタート term management plan“ Challenge CKD 2018”
focusing on the next 10 years. This strategic
しました。重点方策の核となるのはもちろん商 policy is of course centered round products. Our
品です。これまで培ってきた大切なコア技術に、 core technologies which have been cultivated
over the years will be integrated with the latest
最新の素材や最新の工法、そしてユニークなア materials and newest manufacturing methods as
イデアを加え、社会に貢献する価値ある技術へ well as innovative ideas to evolve into a new
worthy technology that will contribute to our
と進化させ、グローバルNo.1商品を目指します。 society by creating the Global No.1 products.
多くの失敗から生まれる新しい技術を、お客 Ever since we began to introduce to our
様へも紹介しようと始めたこの技報も今年で第 customers the new technologies born from the
pains of many setbacks, this is now our technical
三刊となりました。技報の発刊がCKD技術開発 report vol. 3. The technical reports serve as a
のバロメーターでもあり、技術者のモチベーショ barometer of CKD’s technological development
and we anticipate it will improve motivation
ン向上につながることを期待しています。そし among the engineers. In addition, if we can
て興味を持っていただいたお客様とのディス develop new technologies through discussions
カッションから、また新たな技術開発に挑戦で with interested customers, there would be
nothing more worthwhile challenging ourselves
きれば、これほどうれしいことはありません。 with.
CKD(Creative Knowledge for Development) Some of CKD (Creative Knowledge for
Development) technical themes that overflow
らしいチャレンジ溢れる技術テーマのいくつか with motivational challenges are published in
を今回も載せることができました。私たちの流 this report. Contributing in any way we can to
improving your productivity with our fluid
体制御、自動化技術が、皆様の生産性向上にほ control and automation technologies is regarded
んの少しでもお役に立てられれば幸いです。 as our mission of utmost importance.
CKD 技報 2017 Vol.3 1
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ブリスター包装機における成形シミュレーション技術
New Simulation System for Blister Packaging Machine
鎌子 奈保美 Naomi Kamako 矢野 嗣士 Masashi Yano
近年ますます設備リードタイム短縮が要求される中、ブリスター包装機におけるポケット成形の要求レベルも上
がってきている。例えば食品のロングライフ化である。包装フィルムの中間にバリア層が加わり、バリア層が容器内に
侵入する酸素の量を抑える仕組みで賞味期限を延ばすことが出来る。このバリア性を維持するためには、フィルム全
体を伸ばしながらもバリア層を破らないようにポケットを成形する必要がある。このとき重要になるのが肉厚分布で
ある。ポケットの肉厚分布を均一にすることが、バリア層の肉厚保持に繋がる。肉厚分布を均一にするため、従来は型
を試作してから正規部品を製作していたが、失敗したらやり直しをする様な時間の余裕は無い。
そこで当社は独自に成形シミュレーション技術を構築し、肉厚分布を予測できる技術を確立した。
With demand for shorter lead time for machine production recently, requirement level of pocket forming quality on
blister packaging machines has been advanced.
Long life of food, for example. This can be realized by using packaging film with barrier layer to minimize intrusion
of oxygen to container. In order to keep this barrier property, film forming needs to be done without breaking
barrier layer.
Important point is distribution of formed film thickness, and evenness of formed film thickness will lead to securing
barrier layer thickness.
To verify evenness of formed film thickness, we made a trial die first and then made a formal die, however such
time allowance is not available any more now and time for remaking cannot be considered.
Under this situation, we have developed unique simulation technology for forming to calculate distribution of
formed film thickness.
This article introduces our simulation technology for forming which is utilized on our blister packaging machines.
1 はじめに 最近は、個食ブームの影響もあり、食品のロングライ
フ化が一層進んでいる。ロングライフ化とは、食品の劣
当社の食品向けブリスター包装機(Fig. 1)では、ゼリー 化を、製造条件や保存条件、そして包装によって遅らせ
やガムシロップなどを、それぞれに適した形状で包装 ることである。劣化する要因には
している。(Fig. 2) ・水分、湿度
・酸化
・光
・温度
・微生物
がある。温度については保管方法の考慮、微生物につい
ては殺菌という方法があり、それ以外の要因に対しては
包装が鍵になってくる。水分に関しては、乾燥剤が効果
的な一方、包装の面からは、水蒸気バリア包材による包
装が有効になる。酸化に関しては、真空包装・不活性ガ
Fig. 1 食品向けブリスター包装機 ス置換包装・脱酸素剤封入・酸素バリア包材による包装
が効果有り。光に対してもUVカット包装などが効果的
である。
バリア包材とは、一般的に、包装フィルムの中間にバ
リア層が加わり、バリア層が容器内に侵入する酸素や水
蒸気などの量を抑える仕組みである。(Fig. 3)このバリ
ア性を維持するためには、ポケット成形時にフィルム全
体を伸ばしながらもバリア層を破らない必要がある。こ
のとき重要になるのが肉厚分布である。ポケットの肉厚
分布を最適にすることが、バリア層の肉厚保持に繋がる
Fig. 2 包装例 のである。
2 CKD 技報 2017 Vol.3
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ブリスター包装機における成形シミュレーション技術
<一般容器 (ノンバリア)> Fig. 4 プラグアシスト圧空成形
<ロングライフ容器 (バリア)>
Fig. 5 全体工程図
先にも述べたとおり、成形する時に一番重要なのが、
ポケットの肉厚分布である。特にバリア包材の場合は、
フィルムに薄いバリア層が入っているため、肉厚が極
端に薄いと一番薄いバリア部分から破れてしまう。如
<アクティブバリア容器>
何に最適な厚みに仕上げるかが重要である。
フィルムの厚みを最適なものにする要素の一つとし
て、成形ポケットを形作る下型の形状と、全体のフィル
ム厚みを左右するプラグの形状がある。これを誤ると
成形ポケットの一部が破れたり、極端に薄くなったりし
て、内容物を保護するというブリスター包装としての
役割を果たせなくなってしまう。また、ランニングコス
Fig. 3 バリア包材の断面図 トを抑えるためには包装材料の厚みを少しでも薄くし
たい。一方、中身の商品を衝撃から守るために包装材料
2 フィルムの成形技術と課題 を厚くせざるを得ない場合もある。
包装の機能としては、内容物の保護が第一優先では
ブリスター包装機で容器包材として使われるのは、熱 あるが、包材コストも抑えたい。当社が目指すところは、
可塑性フィルムである。PVC(ポリ塩化ビニル)やCPP 成形後のフィルムの各部厚みを最適に保ちつつ、最小
(無軸延伸ポリプロピレン)、A-PET(ポリエチレンテレ 限の包装材料を使って内容物を衝撃から守れるように
フタレート)、バリア層の入った各種フィルムなど、様々 することである。
なものがあるが、ポケットを形作る原理は変わらない。 今まではフィルム厚みを左右するプラグを何度も作
工程としては、容器包材である熱可塑性フィルムを り直すこともあった。試作して、成形して、肉厚を測り、
(1)加熱ゾーンで温めて軟化させる プラグを修正してまた成形して、ということを繰り返
(2)成形ポジションに移動 し、最適な形状を見つけていた。しかし最近は求められ
(3)成形上型と成形下型で挟む るリードタイムがますます短くなってきており、そのよ
(4)プラグ型でフィルムを押し伸ばす うな時間が取れない場合が多い。つまり、ポケット形状・
(5)圧空エアを吹く プラグ形状を一度決めたらやり直しがきかないケース
という流れになる。この成形方式を、プラグアシスト圧 が多くなってきたのである。
空成形と言う。(Fig. 4)
また、薄い軟質フィルムなどで包装する際には、加熱 3 成形シミュレーションの活用
されたフィルムに、プラグを使わずにエアのみ吹くま
たは真空引きして形作ることもある。 短期間でリスクを低減できる技術として、CAE
この様にして、下型に加工されたポケット形状(凹形 (Computer Aided Engineering)を用いた“成形シ
状)にフィルムが倣い、狙いのポケットを形作ることが ミュレーション解析”を行っている。金型とプラグ、フィ
出来る。この後、充填工程で内容物を詰めて、蓋をして ルムのモデル(Fig. 6)を作成し、機械特性と各種材料物
(シール)、最終形状に切り出す(打抜)という流れにな 性パラメータを入力することにより、成形後のポケット
る。(Fig. 5) の肉厚分布を事前予測することが可能となる。
CKD 技報 2017 Vol.3 3
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てPC上で行うことが出来、試作部品代も部品製作時間
もかからず、コストを抑えられるのが大きなメリットで
ある。
Fig. 6 解析モデル
この材料物性パラメータを設定する為には、対象と
なるフィルムの物性を知る必要がある。これに関して
は、対象となる素材(フィルム)の測定試験をしている。
粘性や引張強度について、各種測定をしてデータを採 Fig. 8 解析結果
取する。このデータを使って、解析ソフトのパラメータ シミュレーションで最適な肉厚分布が得られてから
を決めることができる。Fig. 7に測定データの一例(伸 実際に金型を作って成形したものが、Fig. 9のポケット
張粘度)と、それを基にフィッティングした結果を示す。 である。
このグラフからわかることは、歪みが大きくなると粘度 シミュレーション時の肉厚分布と実際に成形したポ
も高くなるということである。成形時、変形すればする ケットの肉厚分布の比較をFig. 10に表す。特に最薄部
ほど粘度が高くなり、変形するのに必要な力が大きく の肉厚が同等であることがわかる。
なっていくということが解る。試験データを完全に再
現するのは難しいので、主に計算に使う範囲内を合わ
せ込むのがコツである。
Fig. 9 実際の成形品
Fig. 7 材料の測定データ
肉厚測定箇所
材料物性がわかれば安心というわけではない。プラ
グとフィルム間のすべりを考慮する必要がある。すべり
とは、物と物が擦れあう時に発生する摩擦力と考えて良
い。同じポケット形状でも、すべりが違うだけで肉厚分
布は大きく変わる。この値を決めるには、合わせ込みが
必要となる。実際に成形したポケットの肉厚実測データ
を基にして、すべり値を様々に変えてシミュレーション
を行い、一番近い解析結果から、最適なすべり値をみつ
けるという方法である。シミュレーションを行う時、こ
のすべりに関する入力項目についてはフィルム材質や Fig. 10 肉厚分布比較
プラグ材質に合わせて変えている。
この様にして成形シミュレーションを行った結果 4 他への展開 (薬品包装機)
(Fig. 8)から、成形後のポケットの肉厚がどの程度か、
最薄部はどこでどれくらいの厚みかを判定し、最適な肉 ここまで食品向けブリスター包装機の成形シミュ
厚分布が得られなかった場合にはプラグの押し込み量 レーションについて述べてきたが、薬品向けブリスター
を変更したり、プラグ形状を修正したりして、再度シ 包装機(薬品包装機=PTP包装機=Fig. 11)でも成形シ
ミュレーションを行う。シミュレーションなので、すべ ミュレーションは活用されている。
4 CKD 技報 2017 Vol.3
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ブリスター包装機における成形シミュレーション技術
5 PTP包装の成形技術と課題
PVCやCPPなどの樹脂フィルムを使ったPTP包装
を樹脂PTPとし、両面アルミPTPとの区別をして説明
する。
樹脂PTPの場合、ポケット側フィルムは熱可塑性樹
脂フィルムである。このフィルムの成形は、事前にフィ
Fig. 11 薬品包装機 ルムを適正な温度で加熱し、軟化した状態で成形する。
PTP包装とは薬を包装する方法の1つで、錠剤やカプ その成形方法は、圧空成形やプラグ成形、または真空成
セルを、成形された樹脂フィルムに詰めて、アルミフィ 形である。浅めのポケットの場合、プラグを使わない圧
ルムで蓋をしたものである。(Fig. 12)PTPとはPress 空成形や真空成形で成形可能であるが、深いポケット
through Packageの略で、薬の入ったプラスチック部 の場合にその成形方式を使うと底の部分のフィルム厚
分を強く押す事で蓋をしていたアルミフィルムが破れ、 みが薄くなってしまう。その場合にはプラグを使用して
中の薬が1錠ずつ取り出される仕組みになっている。容 成形する必要がある。プラグでフィルムを底の方まで押
器材料にはPVCやCPP、蓋材料にはアルミがよく使わ し運び、全体的にフィルム厚みを均一にするイメージ
れる。 だ。当社で主流な成形方式は、エアアシストプラグ成形
(Fig. 14)と、プラグアシスト圧空成形(食品向けブリス
タと同じ方式)である。
Fig. 14 エアアシストプラグ成形
一方、両面アルミPTPのポケット側フィルムは一般
的に「NY25μm/接着剤/印刷/ AL40or45μm/接
着剤/ PVC60μm」という構成が主である(Fig. 15)。
Fig. 12 PTP包装例
また、容器包材にアルミラミネートフィルムが使わ
れる場合もある。両面アルミPTPと呼ばれ、蓋材にア
ルミフィルム、容器材にアルミラミネートフィルムを
用いたPTP形態である。(Fig. 13)海外(欧米、韓国な
ど)では、この両面アルミPTPの比率が日本よりも高
い。両面アルミPTPが選ばれる理由としては、薬剤特
性により最高レベルの防湿性、遮光性が求められるこ
と、ピロー包装などの二次包装が不要となり、過剰包
装でなくなること、1ポケット毎に品質保持が出来る
こと、新薬開発のスピードアップのために用いられる
ことなどが考えられる。 Fig. 15 両面アルミPTPの構成
熱可塑性樹脂フィルムの成形は、食品向けブリス
ター包装と同様、事前にフィルムを適正な温度で加熱
してから成形するが、アルミラミネートフィルムには
事前の加熱が適さない。加熱することにより接着層間
にて剥離が生じて成形時に破れてしまう可能性があ
る。よって、一般的にはアルミラミネートフィルムの
成形には冷間成形(コールドフォーミング)(Fig. 16)
が適している。フィルムに熱を加えずに成形するので、
Fig. 13 両面アルミPTP包装例
CKD 技報 2017 Vol.3 5
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加熱した柔らかい樹脂フィルムを成形するのに比べ、 6 PTPへの成形シミュレーションの活用
無理にフィルムを伸ばすとアルミ層のピンホール、ク
ラック(Fig. 17)を発生させてしまうことがある。この PTPの成形シミュレーション時にもすべりが重要に
ピンホール、クラックをいかに発生させずにアルミラ なってくる為、合わせ込みを行い、最適なすべり値を見
ミネートフィルムを成形するかが重要な課題である。 つけ出してシミュレーションに利用している。
ポケットの間口を広くし、ポケットの深さを浅くす Fig. 18とFig. 19に樹脂PTPの成形シミュレーショ
れば上記課題の克服は容易であるが、当社はより樹脂 ン結果(コンター図と肉厚分布グラフ)を示す。シミュ
成形に近い(ポケット深さに対してポケット間口を無 レーションの結果で成形後のポケットの最薄部の肉厚
駄に広げない)ポケット形状を目指している。これは がどの程度かを判定し、成形可能かどうかを判断するよ
PTPシートサイズの小型化、携帯性の向上、省資源化 うにしている。
のためである。また、製薬メーカからもそういった要
望は多い。
Fig. 18 樹脂PTPの解析結果
Fig. 16 冷間成形
肉厚測定箇所
Fig. 19 樹脂PTPの解析結果
同様に、Fig. 20、Fig. 21に両面アルミPTPの成形シ
ミュレーション結果を示す。実際に成形したポケットの
Fig. 17 ピンホール・クラック 肉厚実測値を比較すると、最薄部の値がほぼ同じになっ
ている。両面アルミPTPの場合は特に最薄部が重要に
では、如何にピンホールやクラックを出さないように なってくるので、最薄部の値を優先的に合わせ込んだ。
するか。これも、食品用のブリスター包装と同様に最適
な肉厚にする事である。通常、アルミラミネートフィル
ム内のアルミ層は40〜45μmあるが半分以下の厚みに
なるとピンホールの可能性があると言われている。当社
では、過去のテスト実績から、アルミラミネートフィル
ムの接着層を含めた総厚み(135〜140μm前後)に対
しておよそ半分の厚みを下回ると、ピンホールの可能性
が高くなると判断している。つまり、最薄部をアルミラ
ミネートフィルムの総厚みのおよそ半分以上になるよ
うにする必要がある。 Fig. 20 両面アルミPTPの解析結果
6 CKD 技報 2017 Vol.3
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ブリスター包装機における成形シミュレーション技術
肉厚測定箇所
Fig. 21 両面アルミPTPの解析結果
7 今後の課題
今までは、製品の品質を保持することを目的にした
CAEの活用に取り組んできた。一方で、最近では、高齢
者や子供にも対応できるように、ユニバーサルデザイン
の考え方がある。今後は、消費者がより使いやすい包装
へ改善する為にCAEを活用していく。例えば、ゼリーな
どの蓋をめくりやすくする為に「蓋フィルムのピール性
の改善」、錠剤を取りだし易くする為に「押し出し性の改
善」などに取り組んでいく。
執筆者プロフィール
鎌子 奈保美 Naomi Kamako 矢野 嗣士 Masashi Yano
自動機械事業本部 開発部 自動機械事業本部 開発部
Research & Development Department Research & Development Department
Automatic Machinery Business Division Automatic Machinery Business Division
CKD 技報 2017 Vol.3 7
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包装ラインと連続生産~コツ・ノウハウ
Introduction of blister packaging line for continuous manufacturing ~knack know-how
真川 達也 Tatsuya Sanagawa
当社では、さまざまな包装設備を製造販売している。
医薬品包装(身近なところでは処方箋や薬局などで受け取る薬の包装)は、指で押し出す包装形態からPTP(Press
Through Pack)と呼ばれており、10錠や14錠などの薬を一枚のシート状にしたものをPTPシートという。
そのPTPシートを所定の枚数重ね合わせ、荷崩れしないようにテープを巻き付け、個包装用の袋に入れ、小箱詰め、
ダンボール詰めまでを行う一連の流れがPTP包装ラインである。
当社では、これらの工程をライン化し、一貫連続生産を実現している。それにより、生産効率UPに寄与している。
本稿では、当社PTP包装ラインにおける連続生産の考えや取り組み、技術などを紹介する。
We are involved in producing and selling various kinds of packaging machines.
One of the popular packaging styles for pharmaceutical products (prescribed medicine for example) is called
PTP (press through pack) on which tablet can be pushed out by finger. This packaging style is mainly used
for packing 10 or 14 tablets per one PTP sheet.
PTP packaging line consists of a series of machines from accumulating certain number of said PTP sheet,
banding with tape to avoid collapse, pillow-wrapping, cartoning, finally to casing in corrugate box.
We have realized these processes in line and continuous production, which can be contributed to
improvement of our customers’ production efficiency.
This article introduces our concept, effort and technologies for continuous production of PTP packaging line.
1 はじめに 剤やカプセル)を保護する目的の「包装工程」とでは、そ
の生産プロセスと求められる性格が異なるものの、連続
従来から、製剤工程ではバッチプロセスによる生産 生産で生産効率を上げるという課題は共通である。
が主流だが、石油、化学、食品産業など多くの業界では 「包装工程」では、数十年前から連続生産のメリット
連続生産システムが確立されている。 が認識され、PTP包装機からダンボールケーサまでの
連続生産システムには「生産効率向上」や「一貫工程に 一貫連続包装ラインが実現できている。
よる省人化」など多くのメリットがあると認められなが 本稿では、当社の包装ライン(Fig. 1)における連続生
らも、製剤工程で採用されなかった。その背景には、医 産の考えやノウハウなどを実施事例も交えて紹介する。
薬品に求められる厳格な均一性・均質性および安全性を
担保するために、生産効率よりも製品品質を重視してき 2 包装ラインの連続生産について
た経緯がある。また、万一トラブルが発生した場合、連
続生産システムではトラブルの影響範囲を明確にする 当社では、医薬品、食品、化粧品、文房具などさまざ
ことが困難で、その間の製品が全て不良損失となるリス まな包装設備を製造販売しているが、ここでは、そのう
クが大きいのもその要因の一つと考えられる。 ちの医薬品包装ラインの連続生産について述べる。
しかし、近年のさらなる高齢化やジェネリック医薬品 容器包材(主に樹脂かアルミ)にポケットを成形し、そ
の拡大により、製剤工程においても高品質を維持しなが こに医薬品(錠剤やカプセル)を1錠ずつ充填し、蓋包材
らの生産効率向上が必要という認識が広まってきている。 (主にアルミ)を熱圧着シールした後、所定の大きさにト
造粒および打錠などを扱う「製剤工程」と、医薬品(錠 リミングしてPTPシート(Fig. 2)を作成する。
Fig. 1 包装ライン(PTP 包装機~ピロー包装機)
8 CKD 技報 2017 Vol.3
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包装ラインと連続生産~コツ・ノウハウ
Fig. 3 ダンサーローラ(シール後)
Fig. 2 PTPシート
2)バッファ装置
それを所定の枚数に集積し、バンドテープ掛けを行 PTP包装機と集積機のように異なる機械を連続的に
い、ピロー包装、小箱詰め、ダンボール詰めまでを行う つなげる際には、その処理速度差を吸収するバッファ
一連の流れである。 機能が必要である。
包装ラインは多くの工程と機械で構成され、それぞ 集積機では、所定枚数のPTPシートを集積するが、
れに求められる役割が異なる。 PTP包装機の生産量が一時的に低下(不良検知排出な
そのような包装ラインの連続生産に求められること ど)した場合に、その不足となった分を「待つ」必要が
としては、主に ある。
①各工程のシステム化 10枚集積する品目で1枚不足している場合、次の1枚
②システムの信頼性 がくるまでバッファ装置(Fig. 4)内で待機し、所定枚数
③機械の安定稼働 が揃ったことを確認したうえで次工程へ進める制御と
が挙げられる。 することで、前後工程の処理速度差を吸収する。これに
より、枚数不足排出や人手による補充も不要な連続化
3 連続生産に対する当社の取り組み を実現している。
3-1 各工程のシステム化に向けて
連続生産を行うにあたってネックとなるのは、各工
程の処理速度が異なることである。
また、どこかの工程が停止した時にシステム全体が
止まり非効率となる懸念もある。
3-1-1 工程間の処理速度差
連続生産では、文字どおり各工程を連続でつなぐ必
要があるが、ただ単純に並べるだけではシステムとし
て成り立たない場合がある。
それは、動きや役割の違う工程間には処理速度差が Fig. 4 バッファ装置
存在するためで、システムとして連続化するにはその
差を吸収する必要がある。 3-1-2 生産効率を低下させない工夫
1)ダンサーローラ やむを得ずどこかの工程を停止させたときにも、極
PTP包装機においては、加熱成形(間欠)・シール(連 力全体の生産効率を低下させない工夫が重要である。
続)・打抜き(間欠)など、処理速度が異なる工程があり、 包装ラインでは、トラブルによる停止だけでなく、資
それを「ダンサーローラ」(Fig. 3)で吸収している。 材の切り替え時にもシステムを止めない配慮が必要で
ダンサーローラとは、連続的につながっているロー ある。
ル送り部において前後工程間のテンションを一定に保 1)資材の自動継ぎ
つものである。間欠動作と連続動作の工程間を定テン 包装ラインでは単位時間ごとに資材(包材やテープ)
ションに保つことで、前後工程を連続化している。 を新しいものへ切り替えていく。
CKD 技報 2017 Vol.3 9
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人手で資材を切り替えるにはシステムを一旦停止す 3-2-2 ポジティブフェイルセーフ
る必要があるが、ここに「自動継ぎ装置」と「ダンサー 自動系外排出部の振り分けダンパは基本排出側を
ローラ」を具備することで、使用中資材の残りを自動で 向いており、良品と認めたものが通過するときのみ受
検知し、システムを停止することなく次の資材へ切り け渡し側へ向くように設定している。万一、機器のト
替えることが可能となる。当社の包装ラインでは、本 ラブルがあっても、不良品が次工程へ流れない設計で
機能をPTP包装機の容器包材部と蓋包材部、バンド ある。
テープ部およびピロー包材部に設けている。 さらに、振り分けダンパ部には「動作確認」センサを
設置し、次工程の入り口部には「不良品の排出」と「良品
3-2 システムの信頼性向上に向けて の通過」を同時に確認するセンサを設置することで二
前項では、各工程のシステム化に向けての重要設計 重三重の砦とし、システムとして高い信頼性を実現し
要素を述べたが、それらをただ配置するだけでは意味 ている。
がない。連続生産において最も重要といって過言でな
い「システムの信頼性」が確保されてこそ、はじめて連 3-3 機械の安定稼働に向けて
続生産といえる。 連続生産において、機械をただ続けて動かすだけで
はなく、仕掛け中の中間製品をスムースに次工程に移
3-2-1 インライン検査 行する配慮が重要である。
連続生産では、バッチプロセスのように品質検査の 以下に、包装ラインで経験したトラブルとその解決
ために機械を止めることができないため、連続的に流 事例を紹介する。
れる製品をインラインで素早く良否判定する必要があ
る。そして、不良品が次工程へ流出しないプロセスを 3-3-1 CPPのカール抑制
構築することが肝心である。 従来、PTPシートの容器包材は、PVC(Poly vinyl
当社では、インライン検査システム“フラッシュパト chlorideポリ塩化ビニル)が主流であったが、環境問
リ”を自社開発している。 題により2000年代からCPP(Cast polypropylene
これは、PTPシートを作成する過程で発生する異物 ポリプロピレン)が増えてきた。
や異種混入、および錠剤の品質不良をカメラで監視す PTP包装機には熱を加える工程があり、熱がかかっ
るものである。 た容器包材は冷却工程によりそれぞれの収縮率で変形
(Fig. 5)に示す通り、検査項目は多種多様であり、 する。
これらを人の目で100%判別することは至難の業と 中でもCPPはその度合いが大きく、さらに「時間を
いえる。 かけて進行する」特徴がある。加熱冷却工程で収縮す
フラッシュパトリは、最速8,000錠/分というス る容器包材(樹脂)と収縮しない蓋包材(主にアルミ)を
ピードで全数検査する。その膨大な検査データを瞬時 熱圧着シールすると、バイメタル(Fig. 6)(熱膨張率
に処理し、良品を検知し良品と認めたもののみを次工 が異なる2枚の金属板を貼り合せたとき、温度の変化
程へ通過させ、良品と認められないものは自動で系外 によって曲がり方が変化する性質)のような作用によ
に排出する制御としている。 りPTPシートにカールが発生する。
これら自動化・無人化・全数検査の考えは、GMP(※1)
の3原則である「汚染および品質低下を防止する」、「人
為的な誤りを最小限にする」、「高い品質を保証するシ
ステムを設計すること」に則したものである。
※1:Good Manufacturing Practice医薬品及び医薬部外品
の製造管理及び品質管理の基準に関する省令
Fig. 6 カールのバイメタル的効果
PTPシートのカールは見た目が良くないだけではな
い。CPPの「時間をかけて収縮が進行する」特徴によ
り、「PTPシート集積後の高さ」が時間経過によって変
Fig. 5 検査項目 化し、それが次工程の安定稼働を阻害する。
10 CKD 技報 2017 Vol.3
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包装ラインと連続生産~コツ・ノウハウ
PTP包装機で使用されるCPPは、フィルム状にさ ラブルシュートの閲覧機能、生産情報の管理ソフトなど
れた段階で約4%が結晶化しており、加熱による温度 を搭載しているほか、オプションで「メンテナンス時期
上昇に比例して冷却時の結晶化が進行し、100℃を超 お知らせ機能」などを用意している。
えると結晶化が50%を超える。また、140℃で1分間 「メンテナンス時期お知らせ機能」とは、生産のたび
放置すると冷却後の結晶化はほぼ100%となり、成形 に対象の交換型に取り付けたRFIDタグに動作回数など
しにくくなる。 の情報を書き込んでいくもので、設定した値を超えると
そこで、CPPに必要以上に高い熱をかけないよう SmartRIn本体に警告を通知するものである。
に、成形する箇所のみを加熱(加熱されない部分が変 あらかじめ対象部品を登録しておくことで、修理や点
形に対する補強の役目を果たし収縮を軽減)するピン 検の時期を事前に把握でき、予防保全を含めた生産計
ポイント加熱型(Fig. 7)を開発し、さらに機械停止時 画が可能となる。
に長時間高温に曝されないように加熱型の開口を広く
する、スリット部に冷却ブローを吹きかけるなどの改 4-2 製剤工程とのシステム化
善を加えている。 近年、製剤工程における連続生産の設備事例が報告
されている。その先には、製剤工程と包装工程の一貫連
続生産ラインがある。
錠剤印字および印字検査など、その間の課題はある
ものの、システム化が実現できればトータルの生産効
率が飛躍的に向上することが考えられる。
5 おわりに
本稿では、当社の包装ラインにおける連続生産につ
いて、考えやノウハウを紹介した。
医薬品の包装ラインにおいては、さらなる生産効率
Fig. 7 ピンポイント加熱型 向上に向けて長時間無人運転など取り組むべき課題が
あり、連続生産はその基礎となっている。
これらの改善で、CPPのカールに起因する諸問題を 当社の包装ラインが、医薬品・医療業界の発展に寄与
解決し、機械の安定稼働を実現している。 し、包装技術・自動化技術を通して社会に貢献できれば
幸いである。
4 包装ラインの今後について
4-1 予防保全
ここまで、機械稼働における連続生産について述べ
てきたが、今後は予防保全を含めた安定性が求められ
ると考える。
当社では、各種見える化や保守保全をサポートする 執筆者プロフィール
“SmartRIn(スマートリン)”(Fig. 8)を提案している。
真川 達也 Tatsuya Sanagawa
自動機械事業本部 第1技術部
Engineering Department No. 1
Automatic Machinery Business Division
Fig. 8 SmartRIn(スマートリン) ■出典■
このシステムはタブレット形の端末を使用したもの PHARM TECH JAPAN 2016年2月号(じほう刊)
で、取扱説明書や型替え手順書、トラブル表示およびト p15-18掲載内容を一部改変
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新型画像検査装置
New Vision Inspection Machine
脇田 隆司 Ryuji Wakita
近年、医薬品の取り違えを防止するために錠剤・カプセル本体への製品名の表示やPTPシートのデザインの工夫に
よる視認性向上、飲みやすさ、扱いやすさなど他社との差別化を図るため色や形状、成分など多種多様な錠剤が増加し
ている。
PTP包装における検査においては、多種多様な錠剤への対応は勿論のこと、高精度で安定した検査が求められている。
こうしたニーズに応えるために、「高解像度」、「省スペース」、「操作性向上」、「多機能」の4つの特徴をもつ新型錠
剤異物検査装置フラッシュパトリFP630・330シリーズを開発した。
本稿では、フラッシュパトリFP630・330シリーズについて紹介する。
In order to prevent taking wrong medicine, such counter-measures have been taken recently as
improvement of invisibility by indication of product name on tablet/capsule, ingenuity of blister sheet
design, wide variety of shapes and ingredient of tablets to differentiate from other companies in ease
in taking and handling.
Inspection for blister sheets is required not only to meet wide variety of tablets but to perform highly
accurate and stable inspection.
In order to respond to these requirements, we have developed Flash Patri FP630/330 series, new
inspection machine for tablet and foreign particle of blister sheet, with four outstanding features of
“High resolution”,“ Space saving”,“ Improved operability” and“ Multi function”.
This article introduces Flash Patri FP630/330 series.
1 はじめに 本稿では、フラッシュパトリFP630・330シリーズに
ついて紹介する。
当社では、1980年代からPTP包装におけるインライ
ン検査に取り組んできた。当初は、錠剤の有り無し、大 2 FP630・330シリーズの紹介
きな欠けといった簡素な検査を行っていたが、製薬メー
カの多くの要求に応えるために、パーソナルコンピュー 2-1 概要
タの普及とともに様々な検査項目を追加、検査精度の向 フラッシュパトリは、PTP機に搭載するインライン
上を行ってきた。 検査装置である。大きく分けると3つのステージで検査
2003年に現在のインライン検査システムのベース を行っている。
となる「フラッシュパトリシリーズFP600シリーズ」を ①容器フィルム原反検査(FP-C)
開発した。そして、2015年に更なる進化を遂げたフラッ 容器フィルムの加熱・成形前の工程にて、容器
シュパトリシリーズ4世代となるFP630・330シリーズ フィルム原反に付着、または練り込まれた異物を検
を開発した。 査する。
Fig. 1 インライン検査システムの搭載位置
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新型画像検査装置
②シール前検査(FP-α、T1)
容器フィルムに錠剤を収納するポケットを成形し、
そこに錠剤を充填した直後、蓋アルミ包材を熱シー
ルする前の工程にて、錠剤・容器フィルムに付着した
異物、錠剤の割れ、欠け、チッピング(錠剤表面の欠け)
の検査を行う。
③シール後検査(FP-β) Fig. 4 異物の解像度比較
蓋アルミ包材を熱シールした直後、スリッタ・刻印 高解像度カメラの採用によって、容器フィルム、蓋
を入れる前の工程にて、錠剤あるいは蓋アルミ包材 フィルムの光学的な影響(てかりなど)を受けやすく検
に付着した異物、錠剤の割れ、欠け、ノンシール(蓋ア 出が困難なシール後の検査においても安定した異物検
ルミ包材未接着)、蓋アルミ包材のシワ、蓋アルミ包 査が可能となった。(Fig. 5)
材の破れの検査を行う。(Fig. 1、Fig. 2)
Fig. 5 シール後の検査装置における異物の撮影画像
2-3 検査ステージの省スペース化
Fig. 2 インライン検査システムの検査内容 近年、医薬品の取り違えを防止するために錠剤・カプ
セル本体への製品名の表示やPTPシートのデザインの
なお、FP630シリーズは、6000錠以下のPTP機(2 工夫による視認性向上、飲みやすさ、扱いやすさなど他
列シート取り、最大300ショット/分)に搭載され、 社との差別化を図るため色や形状、成分など多種多様
FP330シリーズは3000錠以下のPTP機(1列シート な錠剤が増加している。PTP包装におけるインライン
取り、最大300ショット/分)に搭載される検査装置 検査においても様々な検査を行っており、フラッシュパ
である。 トリシリーズでは、現在10機種ある。(Fig. 6)
2-2 高解像度カメラによる安定した検査
PTPシートを検査する上で重要な項目の1つに異物
の検査がある。錠剤上の異物、シート上(容器フィルム
上、蓋アルミ上)の異物を安定して検出するためには、
異物を鮮明に大きく写すことが重要な要素となる。
FP630・330シリーズでは、全ての機種において、800
万画素という高解像度のカメラを使用している。これ
は、従来のFP620・320シリーズの500万画素カメラ Fig. 6 各検査装置における検査内容
から大幅にアップした。(Fig. 3、Fig. 4)
搭載する機種数が多くなると、それに伴い検査装
置の設置スペースも大きくなるためPTP機によって
は、そのスペースを確保できず搭載できない、ある
いはスペースを設けるためPTP機が大きくなる問題
があった。
検査ステージの設置スペースを削減するために、従
来のFP620シリーズの5つの検査ステージから3つの
検査ステージに統合を図り、従来スペース比40%減を
Fig. 3 解像度比較イメージ 実現した。(Fig. 7)
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①撮影するタイミングの設定
②設定の基準となる画像の撮影
③検査位置などの検査条件の設定
④検査を行ない、検査が正常に行われているかどう
か確認
の通りである。
設定を行うには、いくつかの画面を切替えながら行う
必要がある。熟練者であれば、どの画面でどのような設
定を行ない、次にどの画面に切り替える必要があるか容
易にわかるが、初心者はそうはいかない。初心者でも容
Fig. 7 検査ステージの統合 易に設定ができるように設定ガイダンス機能を追加し
た。(Fig. 8)
装置を統合するにあたり、カメラの台数を削減した。
従来のFP620-A/ D/ T2の3つの機種をFP630-α
に集約した。従来のFP620・320では、1シートあたり
4台のカメラで5回の撮影を行っているが、FP630・
330シリーズでは、高速かつ高解像度な撮影が可能な
カメラを採用し、1台のカメラで最高6回の撮影を可能
にした。
Fig. 8 ガイダンス機能
高速かつ高解像度なカメラを採用するには、様々な
課題がある。代表的な課題と対策を以下にあげる。 次の画面に進む場合は、「NEXT」ボタンを押し、1つ
課題① 撮影した画像の伝送性能 前の画面に戻る場合は「BACK」ボタンを押すと自動的
PTP機のインライン検査の場合、撮影部(カメラ、 に画面が切り替わり、設定を行う内容が表示される。表
照明など)と処理部(撮影した画像を処理する演算 示 され た内 容に 従って 設 定を 行 ない 完 了したら
装置)との距離が5m~10mとなるため、長距離、長 「NEXT」ボタンを押すという作業を繰り返すことで、一
時間安定した撮影が求められる。 連の設定を確実に完了することが可能になり、また、次
課題② 撮影した画像の安定性 に設定すべき内容を把握し、画面に迷うことなく設定が
同じ対象物を連続して撮影した場合に画像の変化 可能である。
が少ないこと。
課題①、②の対策として、カメラ画像伝送に光伝送方 2-4-2 FP-ADRAGE
式を開発し、従来に比べ6倍の高速な伝送能力で安定し PTP機に搭載する機種は、製造する品種に応じて選
た撮影が可能になった。 択する。それぞれの機種には検査状況(良品数、不良項
課題③ 撮影した画像の高速演算 目ごとの不良数)が表示される。(Fig. 9)
検査時間を低下させることなく、高速で演算できる
こと。
課題③の対策として、検査アルゴリズムの見直し、使
用する演算処理装置に対する最適化、検査タイミング
を解析し可能な限りの並列処理を行うことで、従来に比
べ6倍の処理能力を実現した。
2-4 操作性の向上
検査装置として、検査項目、検査精度、安定性を向上
させることが重要であるが、検査装置の性能を十分に
発揮するには正しく設定されていることや、設定方法・
調整方法が容易であることも重要である。この点につい
て、FP630・330シリーズで新たに追加した3つの機能
について紹介する。 Fig. 9 検査中の画面
2-4-1 設定支援機能 例えば3機種(FP630-α(A)、α(D)、α(T2))(検
FP630・330シリーズの設定手順は 査内容については、Fig. 2を参照)がPTP機に搭載され
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新型画像検査装置
ている場合は、3つの画面で良品数、不良数を確認する
必要がある。また、それぞれの機種は独立して検査を
行っているため、例えば欠錠のシートが1枚発生した場
合、α(A)、α(D)、α(T2)それぞれの機種で欠錠の不
良がカウントされる。不良として排出されるシートは1
枚であるが、不良のカウントはα(A)で1シート、α(D)
で1シート、α(T2)で1シートの合計3シートとなり、排
出されたシート数と不良数が一致しない。どの機種で Fig. 12 タブレット端末による遠隔操作
どのような検査項目で不良検知したかを正確に把握す 2-5 多機能
ることは、歩留まりを向上させるためには重要なことで 多種多様な品種に対応するため追加した4つの機能
ある。 について紹介する。
搭載されている全ての機種の検査結果を統合するこ
とで、不良として排出されるシート数やどの機種でど 2-5-1 褐色錠剤対応
のような不良が多いかなど、生産の状況を把握しやす フラッシュパトリの名前の由来でもあるフラッシュ
くするためにFP-ADRAGEという新たな装置を開発 機能は、近赤外線光を照明に用いることで錠剤印刷、
した。主な機能は、下記の通りである。 シート印刷(蓋フィルムの印刷)の影響を受けることな
①検査カウンタ・不良シフト※1の統合 く、シート全面の異物検査が可能となる。近赤外線は、
搭載されている全ての装置の検査カウンタ、不良 異物検査には非常に有効な手段であるが、ごく稀に褐
シフトを1つの画面にて確認できる。(Fig. 10) 色錠剤の場合に、錠剤が近赤外線を吸収することで錠
※1:不良シフト:検査結果をグラフィックスにて履歴表示する機能 剤とシートとの明るさの差が少なくなり、判別が難しい
品種がある。従来のFP620・320シリーズでは、可視光
による検査装置を追加することで対応をしてきたが、
FP630・330シリーズでは、近赤外線光を使う白黒画
像による検査と可視光を使うカラー画像による検査を
品種毎に切り替えることができる。(Fig. 13)この機能
によりフレキシブルな検査を可能とした。
Fig. 10 検査画面の統合
②再検査
検査中に発生した不良について、生産を止めるこ
となく再検査を行ない、不良状況を確認できる。
(Fig. 11)
Fig. 13 褐色錠剤対応
2-5-2 レーザ印刷対応
医薬品の取り違えを防止するために錠剤・カプセル自
体に製品名の表示をする品種が増えてきた。錠剤印刷
機(錠剤に文字や図柄を印刷する機械)の性能向上に伴
い、錠剤に様々な情報を印刷されるようになり、錠剤表
面に占める印刷範囲の割合がより広くなってきた。特に
UVレーザを照射す
ることで錠剤に印刷
を 行 っ た 場 合 、フ
ラッシュ機能が機能
しないため印刷範囲
Fig. 11 再検査画面 を異物検査の対象外
③タブレット端末による遠隔での確認 とする(以降マスク
タブレット端末を使用して無線LANによって、離 処理という)必要が
れた場所からもFP-ADRAGEの操作ができる。 ある。(Fig. 14)
(Fig. 12) Fig. 14 従来の錠剤印刷マスク処理
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マスク処理を行った場合、錠剤印刷範囲が広いほど、 良として検出されるかどうかを確認する。非常に小さ
異物を検査する範囲 な異物を扱うため手間がかかり、時間もかかる作業で
が 狭 く な っ て し ま ある。検査における設定を変更した場合は、検査条件
う。そこで錠剤印刷 が異なるため精度確認を都度行う必要がある。
の形にマスク処理を 仮想精度バリデーション機能は、予め取り込んでお
施 す 機 能 を 追 加し いた異物データを仮想的に錠剤上または、シート上に
た。マスク処理を行 付着させることができる機能である。検査を行う画像
う範囲を最小限にす 上で異物を付着させたい位置をマウスクリックするこ
ることで、異物を検 とで仮想的に異物を付着させることができる。これに
査する範囲が拡大し より設定変更の際、容易に精度確認をすることができ
た。(Fig. 15) Fig. 15 錠剤印刷の形のマスク処理 る。(Fig. 18)
2-5-3 アルミ破れ検査(FP-β(P))
蓋アルミ包材の走行ライン(通り道)において、様々
な要因により、突発的に穴、亀裂、破れがごく稀に発生
することがあり、これを検査する装置である。
シール後の検査装置FP630―βに薄型の透過照明 Fig. 18 仮想バリデーション
を追加し、検査ステージを増やすことなく検査を実現
した。(Fig. 16、Fig. 17) 3 おわりに
フラッシュパトリFP630・330シリーズでは、検査
精度だけではなく、安定性、省スペース、操作性にも焦
点を当てて開発した。
検査装置の開発となると検査精度のみを追求しがち
であるが、今回の開発を通じて、それ以外の部分の重
要性を再認識した。
今後もPTP包装機のトップメーカとして、常にお客
様のニーズに耳を傾けながら、検査性能(検査精度と
検査項目)と使い易さを両立した検査装置開発に取り
組んでいく。
Fig. 16 薄型透過照明の搭載位置
執筆者プロフィール
Fig. 17 アルミ破れの撮影画像イメージ
2-5-4 仮想精度バリデーション機能
検査装置において、精度確認は非常に重要な作業で
ある。FP630・330シリーズでは、錠剤上の異物、シー
ト上の異物の検出精度は、0.1mm角、φ25μm× 脇田 隆司 Ryuji Wakita
2.5mmである。精度確認は、2種類の異物について錠 自動機械事業本部 第1技術部
Engineering Department No. 1
剤上、又はシート上に付着させ、検査を行うことで不 Automatic Machinery Business Division
16 CKD 技報 2017 Vol.3