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永年当社が蓄積してきた自動化を革新するための課題、問題解決への技術・研究開発の成果を技術情報としてご紹介いたします。
・新型薬品包装機の開発
・ダイヤル付きスピードコントローラの小形化技術
・酸素濃縮器用電磁弁の小形化技術
・PTPシート・打ち抜き・印刷ズレ検査装置の開発
・スパイラル形蛍光灯におけるガラス加工技術
・窒素ガス精製ユニット
・流量モニタリングシステム
・塩酸蒸気環境下によるSUSXM7材ボルトの応力腐食割れ評価
このカタログについて
ドキュメント名 | 【技術資料集】CKD技報 Vol.5 (2019年) |
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ドキュメント種別 | その他 |
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登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | CKD株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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技
報
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CKD技報 Vol.5
CKD Technical Journal
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月
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1 CKD 技報 2019 Vol.5
Page3
目次
目次
課題につながる技術への探求 1
巻内特集 テーマ「小形化」
新型薬品包装機の開発 2
ダイヤル付きスピードコントローラの小形化技術 6
酸素濃縮器用電磁弁の小形化技術 10
PTPシート・打ち抜き・印刷ズレ検査装置の開発 13
スパイラル形蛍光灯におけるガラス加工技術 18
窒素ガス精製ユニット 23
流量モニタリングシステム 26
塩酸蒸気環境下によるSUSXM7材ボルトの応力腐食割れ評価 30
CKD 技報 2019 Vol.5 2
Page4
Table of Contents
Pursuing Technologies that Solve Problems 1
Special Report on“ Miniaturization”
Development of New Pharmaceutical Blister Packaging Machine 2
Downsizing Technologies of Speed Controller with Adjusting Dial 6
Miniaturization of Solenoid Valve for Use in Oxygen Concentrators 10
Development of Blister Sheet Inspection Machine for Punching
and Printing Displacement 13
Glass Processing Technology for Spiral Type Fluorescent Lamp 18
Nitrogen Gas Extraction Unit 23
Flow Monitoring System 26
Evaluation of Stress Corrosion Cracking of SUSXM7 Bolts under
Hydrochloric Acid Vapor Environment 30
3 CKD 技報 2019 Vol.5
Page5
ごあいさつ
課題につながる技術への探求
Pursuing Technologies that Solve Problems
奥岡 克仁 Katsuhito Okuoka
CKD株式会社
取締役常務執行役員
CKD Corporation
Director & Managing Executive Officer
製造業を取り巻く環境はグローバル化や多様化が加 Demand for automation is becoming greater than
速しており、国内では労働人口の減少による深刻な人手 ever in manufacturing industries, with serious
shortage of manpower due to a decrease in labor
不足、海外では人件費の高騰なども加わり自動化への force in Japan, and soaring labor costs overseas, in
ニーズが大きく高まっています。このような中、当社で addition to accelerating globalization and
diversification.
は企業理念である「私達は創造的な知恵と技術で流体制 Under such circumstances, CKD has been delivering
御と自動化を革新し豊かな社会づくりに貢献します」に new values that solve customers’ problems based
on our core technologies, going back to its corporate
立ち返り、私たちの持つコアテクノロジーをベースとし philosophy of“ With creative knowledge and
てお客様の困りごとを解決し、新たな価値を提供する活 technology; We shall innovate fluid control and
automation; Thus contribute to build rich society”.
動を展開してまいりました。 In this fifth volume of“ CKD Technical Journal”, we
今回で第五刊となるCKD技報も同様にお客様の課題 have authored to include contents useful for
“efficiency improvements and automation” with
解決の過程で培われた「小形化」技術を主テーマとして “miniaturization” technology, which we have
「効率化・自動化」に役立つ内容を加えて編纂をしました。 accumulated through solving problems of our
customers, as the main theme.
創刊以来、技報はたくさんのお客様から好評を得てさ Since its first publication, the“ CKD Technical
まざまな問合せを頂戴しました。その結果、お客様の課 Journal” has gained popularity among many
customers, and we have received many inquiries.
題解決に新たにつながると同時に私たちの技術も深化を As a result, we have helped customers solve
遂げることができました。本刊も皆様の課題解決につな problems and at the same time deepened our
technology. I hope this volume will also help you
がる一助になれば幸いです。 find solutions to your problems.
最後になりますがCKDは、創立75周年を迎えるこ Finally, CKD is celebrating its 75th anniversary.
I would like to deeply express our humble gratitude
とができました。これも日ごろからご愛顧頂いているお and appreciation to our customers, to our
客様をはじめ代理店様や購買先様の温かいご支援の賜 distributors, and to our suppliers for their continued
物と心より深く御礼を申しあげます。 patronage and for the warm support.
I ask for your continued guidance and
CKDグループはお客様に寄り添う技術開発を更に加 encouragement in our endeavors as we, the CKD
速し社会に貢献してまいりますので引き続きのご指導、 Group, further accelerate technological development
according to customers’ needs and contribute to a
ご鞭撻をよろしくお願い申しあげます。 prosperous society.
CKD 技報 2019 Vol.5 1
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巻内特集 テーマ「小形化」
新型薬品包装機の開発
Development of New Pharmaceutical Blister Packaging Machine
田代 大輔 Daisuke Tashiro
PTP薬品包装には、使用する包材の特性や錠剤の特性に伴う機能追加など、ユーザごとの様々な要求仕様がある。
これらに対応する薬品包装機は、オプション・特注仕様のバリエーションが多く、機械が大型化、複雑化している。
一方で、包装工程への設備導入や更新においては、機械稼働の安定性や機能の充実に加えて、クリーンルーム環
境の限られたスペースへの設置や使いやすさが求められている。
こうした高機能化と省スペース化などの要求に応える為に、必要な機能をあらかじめ備えた「パッケージ」、使い
やすさを追求した「デザイン」、既存スペースにも設置可能な「コンパクト」の特長を持つ新型薬品包装機FBP-320E
を開発した。
本稿では、FBP-320Eのコンセプトや開発の取り組みについて紹介する。
Pharmaceutical Blister Packaging Machines are requested to have various requirements for each customer
such as additional function to handle special characteristics of packaging material to be used and tablet to be
applied. Pharmaceutical blister packaging machines should have variety of options and custom specifications
to meet these requirements, which makes the machines increasing in size and complicated.
On the other hand, when the packaging machines are introduced or renewed, small footprint to install in a
limited space of clean room and user friendliness is required in addition to stable machine operation and
enriched functions.
To resolve this conflict of high performance and space saving, we have developed new pharmaceutical blister
packaging machine model FBP-320E which realizes outstanding features of“ Package” to have necessary
functions available in advance,“ Design” to seek user friendliness and“ Compact” to install in a limited space.
This article introduces concept and approach to development of FBP-320E.
1 はじめに 一方で、包装工程への設備導入や更新においては、
機械稼動の安定性や機能の充実に加えて、クリーン
当社の薬品包装機械では、薬を指で押し出す包装形 ルーム環境の限られたスペースへの設置や使いやすさ
態であるPTP(Press Through Pack)薬品包装を が求められている。
行っている。
薬品包装工程には、使用する包材の特性や錠剤の特 2 コンセプト
性に伴う機能追加に加えて、様々な検知機能や錠剤検
査機能など、ユーザごとの多種多様な要求仕様がある。 このような高機能化、省スペース化などの要求に応
(Fig. 1) える為に、薬品包装機FBP-320Eでは、
①必要機能を持つ標準仕様の「パッケージ」
②使いやすさを追求した機械「デザイン」
③「コンパクト」な機械レイアウト
という特長をコンセプトとして開発した。(Fig. 2)
(Fig. 3)
次項より、FBP-320E開発の各コンセプトに対する
取り組みについて紹介する。
Fig. 1 薬品包装工程
これらに対応する薬品包装機は、オプション・特注
仕様のバリエーションが多く、機械が大型化、複雑化
している。 Fig. 2 薬品包装機FBP-320E 外観
2 CKD 技報 2019 Vol.5
Page7
【巻内特集】 新型薬品包装機の開発
現在ではほとんどの機械で具備しているオプション
や、両面アルミ包装など製薬業界の動向変化に伴い需
要が増えている特注機能を厳選し、FBP-320Eでは標
準仕様として搭載した。
また、その他の要求の多い機能についても追加対応
が可能なオプションをあらかじめ用意し、仕様検討時
にユーザが任意に選択できるようにした。(Fig. 4)
これまでの特注設計から、多様な仕様内容について、
要求仕様と目的とする機能との関係を整理し、FBP-
320Eに必要とされる機能を選び抜くことは困難で
あったが、ユーザにとって最適なシステムを提案でき
Fig. 3 FBP-320E 開発コンセプト るよう必要十分な標準仕様と厳選されたオプションを
突き詰めた。
3 標準仕様のパッケージ 標準仕様を確立することで、本体部分を事前に先行
生産することも可能となる。これにより、コストを抑
当社では、これまで多様な仕様のバリエーションに えられるだけでなく、受注から出荷までの生産リード
対応するため、ユーザから様々な要望を受けて、それ タイムも短縮することができる。また、オプション内
に合わせた特注機械を設計・製造してきた。 容を事前に想定することで、各装置を無駄なく配置し、
特注機械は、ユーザの細かい要望に応えられるメ 最適なレイアウトにすることも可能となった。
リットもある反面、必要な機能が同じであっても細か
い部分が特注設計になり、それに伴って影響を受ける 4 使いやすさを追求したデザイン
他の機構も変更が必要となる。
そのため、高機能でも安価な薬品包装機を求める 近年、工作機械などでも機械のデザイン志向が進ん
ユーザの需要に応える為には、従来の特注対応する受 でいる。FBP-320Eの開発においては、外観上の意匠
注方式から、必要十分な仕様を備えた標準機をユーザ 性だけではなく、ユーザの使いやすさを向上させるた
に提案していく方式への転換が必要であった。 めにも「デザイン」を重視して開発を行った。
まず、長年の受注実績から、オプションおよび特注 使いやすい「デザイン」を探るため、従来の薬品包
仕様について仕様項目を要素ごとに全て洗い出し、薬 装機を使用している生産状況を調査し、操作する作業
品包装機に求められる機能を明確化した。 者の目線でより使いやすくするため、作業内容を分析
蓋フィルムのデザインを打抜きシートに合わせる した。
マーク合わせ機能や容器フィルム自動継ぎ機能など、 分析の結果、薬品包装機を使用して錠剤を包装する
のは比較的女性作業者の方が多いことが分かった。機
械の大型化に伴い、充填ゾーンや包材のセット位置が
高くなり、操作しにくい場所がある。また、機械高さが
高いため機械天面などが清掃しづらくなっていること
が分かった。
そこで、日本人女性の平均身長約158cmを基準に、
各作業エリアの高さをレイアウトした。
作業頻度の多い充填ゾーンは、人間工学から作業し
やすい高さ860mm(当社従来機 1000mm)に低く設
定し、錠剤やポケットの様子を見やすい姿勢で確認で
きるようにした。(Fig. 5)
Fig. 4 標準仕様とオプション Fig. 5 充填ゾーンの高さ設定
CKD 技報 2019 Vol.5 3
Page8
また、操作パネルの設置位置や蓋フィルムの装填位 をホーム画面に集約し、最小限の操作で作業可能なデ
置を見直し、効率良く作業ができるように配置した。 ザインを採用した。(Fig. 8)
つぎに、内部機構も一点一点見直すことで、機械高
さは従来比で14%削減した。清掃性や視認性が向上
し、外観上も圧迫感の少ない機械とした。(Fig. 6)
Fig. 6 機械高さの低減 Fig. 8 操作用インターフェースデザイン
さらに、薬品包装機の設置環境にも注目した。薬品 従来機に比べコンパクトな機械となっているが、扉
包装工程においては、クリーンルーム内の限られたス のゾーン区分(Fig. 9)による安全性や操作性の確保な
ペースに機械が設置されており、そこには作業台や包 ど、「機械と人」の関係や作業環境についても配慮して
装資材なども置かれている。 いる。
そこで、作業時の移動をスムーズにするために、
FBP-320Eでは機械のコーナー部分に面取りを施し、
作業動線を確保した。これによって包材補充などの資
材運搬時に、パレットや作業者自身がぶつかりにくく、
スペースを有効に活用することができる。(Fig. 7)
Fig. 9 扉の安全ゾーン区分
5 コンパクトな機械レイアウト
薬品包装の後工程には、シートの集積、ピロー包装、
箱詰など複数の工程が並んでいる。一般的には、錠剤
をPTPシートに充填包装するまでの工程を充填室とし
て、仕切られていることが多い。
薬品包装機が設置される充填室は、錠剤が包装され
る前の状態であるため、異物混入の防止や温湿度管理
されたクリーンルームとなっている。
クリーンルームは清浄度の管理・運用面で、機械に
対しあまりスペースに余裕がないことも多い。しかし
Fig. 7 コーナー部面取りによる動線改善 ながら、既存機の入れ替え需要においては、同じスペー
スへの設置が求められる。市場要求と共に機能が増え
加えて、機械操作用のタッチパネルのインター 大型化した機械を同じスペースに納めるには大幅な省
フェース画面についても、操作頻度の多い項目や、記 スペース化が必要であった。
録に残したい項目を分析した。分析結果から、これま まず、当社の既存機を使用頂いているユーザの工場
でいくつかの画面ページを移動して確認していた項目 について、充填室のスペースを100ライン程調査した。
4 CKD 技報 2019 Vol.5
Page9
【巻内特集】 新型薬品包装機の開発
更新需要において、同じ充填室にそのまま設置した 他にも、自社開発している異物検査装置の省スペー
いという要求に対応し、資材運搬などの作業スペース ス化などにも取り組み、機械全体のコンパクト化を
も考慮すると、必要な設置寸法は4700mm以下であ 図った。
り、現行機に比べて大幅なサイズダウンが必要となっ これにより、薬品包装機の同クラスで最も短い設置寸
た。(Fig. 10) 法となり、クリーンルームの変更なしで容易に既存機か
らの更新に対応できるコンパクトな機械を実現した。
6 おわりに
本稿では、薬品包装機FBP-320Eの開発コンセプト
や取り組みについて紹介した。
薬品包装に求められる要求を分析することで、必要
な機能を備えるだけではなく、使いやすくデザインされ
た、コンパクトな薬品包装機を開発した。
今後も常に変化するユーザのニーズに耳を傾けなが
ら、最適な機械を提案できるように取り組んでいく。
Fig. 10 機械設置寸法
この設置寸法に機械を収める為には、各装置の小型
化だけではなく、従来機とは異なる、新しい機構構造
の採用が必要であった。
一例としては、PTPシートを後工程へ接続する際の
取出し搬送機構の省スペース化に取り組んだ。
打抜いたシートを後工程へ搬送する際、従来機では、
PTPシートを少しずつ斜めにずらしながら搬送する事
でスライドしていたが、この方法では搬送に長い距離
が必要となり、設置寸法が長くなっていた。
これに対しFBP-320Eでは、打抜いたPTPシート
を、その場で後工程用シートピッチにスライドさせて
から、直線的に取り出す方式を開発した。スライドす
るストローク量は、PTPシートのサイズによって変更
する事で、多品種に対して同じ後工程用シートピッチ
に合わせる事も容易である。
この方式の採用により、取出し搬送機構の長さを従
来機に比べ1000mm程大幅に短縮することができ
た。(Fig. 11)
執筆者プロフィール
田代 大輔 Daisuke Tashiro
自動機械事業本部
技術開発統括部 第 1技術開発部
Engineering and Development Department No. 1
Fig. 11 取出し搬送機構の違い Automatic Machinery Business Division
CKD 技報 2019 Vol.5 5
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巻内特集 テーマ「小形化」
ダイヤル付きスピードコントローラの小形化技術
Downsizing Technologies of Speed Controller with Adjusting Dial
大石 崇 Takashi Ohishi
製造現場では、ワークの搬送や部品の圧入などを目的にエアシリンダが使用される。
エアシリンダの速度調整用途にスピードコントローラが使用され、従来、調整作業時間は作業者の経験により左
右され、再現性もなかった。
この課題に対し、流量特性がリニアでダイヤル目盛によるシリンダスピード設定が可能となる「ダイヤル付きス
ピードコントローラ」とその小形化に関する取り組みについて紹介する。
なお、小形ダイヤル付きスピードコントローラは、操作性及びデザイン性が認められ、2016年度グッドデザイン
賞、そしてiFデザイン賞2018を受賞している。
In manufacturing sites, air cylinders are used for carrying workpieces and press-fitting of parts.
For the speed adjustment of air cylinders, speed controllers have been used. However, each
worker’s experience affected both the operating time for adjustment and the reproducibility of
flow rate.
This paper introduces the "Speed Controller with Adjusting Dial" which enables to set the cylinder
speed by dial scale and has linear flow characteristic and our efforts on its downsizing.
On a side note, the compact type speed controller with adjusting dial (DSC-C series) was highly
evaluated for its operability and design and was awarded the 2016 Good Design Award and the
2018 iF Design Award.
1 はじめに
製造現場では、ワークの搬送や部品の圧入などを目
的にエアシリンダが多く使用されている。スピードコ
ントローラは内部の可変オリフィスにより圧縮エアの
流量を制御する機器であり、エアシリンダの速度調整
用途に使用される。
このスピードコントローラの調整作業は、つまみを
操作してからエアシリンダを駆動し、実際の速度を確
認しながら狙いの速度になるまでつまみを操作するこ
とを繰り返して行われ、作業者の感覚や経験により作 Fig. 1 一般的なスピードコントローラ内部構造
業時間が左右される。この作業時間を大幅に削減する
提案として、ダイヤル付きスピードコントローラの概
要と小形化技術について紹介する。
2 ダイヤル付きスピードコントローラの概要
ダイヤル付きスピードコントローラ(以下DSC)は、
オリフィス面積を可変させるニードルの回転数をダイ
ヤル目盛により数値表示する機能を備えた製品であ
る。同時に、ダイヤル目盛と制御流量を比例させてい
るため、同一装置のリピート生産では配管条件を同一
にし、本スピードコントローラのダイヤル目盛を設定
すれば、流量の再現が可能となる。比較用として、一般
的なスピードコントローラの構造をFig. 1に示し、DSC
の構造をFig. 2により説明する。
Fig. 2 DSCの内部構造
6 CKD 技報 2019 Vol.5
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【巻内特集】 ダイヤル付きスピードコントローラの小形化技術
本体中央部にはねじが切られており、ニードルがね この結果、Fig. 5に示すリニアな流量特性がえられ、
じにより本体に螺合される。ニードル上部には二面幅 ニードル回転数(ダイヤル目盛表示)と流量が比例する
が形成され、つまみが嵌合している。つまみ下部に接 ことで、流量のバラツキを抑え、調整作業の効率化に
するようにギアが配置され、ギアの外側にダイヤル目 寄与する。
盛が構成される。また、ニードルの下部にチェック弁 DSCはシリンダ速度調整において、流量のバラツキ
が備わっている。 が少ないためダイヤル表示を合わせるだけで同じ設定
実際の動作について説明する。 が可能であり、一般的なスピードコントローラから格
つまみを回転するとニードルが回転し、ねじの作用 段に作業性を向上した製品である。しかし、これを実
によりニードルがオリフィスに対して変位するため、 現するには構造が複雑となり、目盛と流量調整部が2
オリフィス断面積が 倍以上の大きさになってしまうため、従来レベル以下
可変し、流量が変化す にすることが大きな課題であった。次節にて小形化に
る。この時、つまみ 向けた取り組みを説明する。
(ニードル)の回転に
合わせてギアが作動 3 DSCの小形化に関する主な技術
し、ニードルが1回転
すると、ギア比により 従来のDSCのダイヤル表示機構は、ニードルの外径
ダイヤル目盛が所定 にギア形状(A)を設け、360°毎でかみ合うギアをさら
の角度である1目盛分 に外側へ設けているため、そのスペースで外径が大き
回動する。(Fig. 3) Fig. 3 目盛外観 くなっていた。しかし小形DSCでは、ギアを径方向で
一般的なスピードコントローラは、最大回転時に流 はなく縦方向に配置し、外形が大きくならないように
量を増やすためにニードルの角度を先端に向かう途中 小形化した。
で大きくする二段テーパ形状が一般的になっており、 従来のDSCのダイヤル表示機構の詳細をFig. 6で説
最大回転時にオリフィス断面積の変化が大きくなる構 明する。
造となっている。一方、DSCではニードルの回転によ
る変位、つまりねじピッチとオリフィス面積が比例す
るようにテーパ形状を形成している。(Fig. 4)
Fig. 4 ニードル形状の違い
Fig. 5 流量特性比較 Fig. 6 従来のDSCのダイヤル部断面
CKD 技報 2019 Vol.5 7
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Fig. 7 小形DSCのダイヤル部
中心に二面幅形状のニードルがあり、つまみと嵌合し これに対し小形DSCのダイヤル表示機構をFig. 7で
ている。つまみには外周上の一部にギア形状(A)が設け 説明する。
てあり、このギア形状(A)の回転軌道上にギアが配置さ 本体に螺合されているニードル上部の二面幅形状に
れている。その外側にギアと噛みあった状態でダイヤル はつまみおよびスライドギアが嵌合している。このス
目盛が配置され、さらに外側には固定部品である本体が ライドギアが前述した縦方向に配置していたギアであ
あり、本体円周上の一部には窓が設けてある。 り、外周面上にはギア(A)とギア(B)が形成されてい
動作について説明する。 る。ギア(A)の回転軌道上には固定部品である本体に
つまみとニードルは一体に回転する。つまみに設け 固定ギア(a)が形成されている。また、スライドギア下
てあるギア形状(A)が回転軌道上に配置されたギアと 部空間にばねが配置され、ばね荷重によりスライドギ
噛み合っている間、ギアは回転し、連動してダイヤル アは上方向に保持されている。さらにギア(B)の下部、
目盛も1目盛分(1歯車)回動する。つまりニードルが1 スライドギアの外側にダイヤル目盛が構成されており
回転する毎にダイヤル目盛は1目盛ずつ回動する。 同じくばねにより上方向に保持されている。またダイ
そしてダイヤル目盛の数値(回転数)が本体に設けた ヤル目盛の上端面には目盛歯車(b)が形成されており
窓に表示される。 ギア形状(B)とは一定のクリアランスで保たれてい
中心にあるニードルの回転をつまみが外側のギアへ、 る。そしてダイヤル目盛の外側に本体が構成され円周
さらに外側のダイヤル目盛へと平面的に動きを伝える 上の一部に窓が設けてある。
構造であり、結果として外径の大形化を招いている。 時系列的な動作について、Fig. 8を用いて説明する。
Fig. 8 ダイヤル表示機構展開図
8 CKD 技報 2019 Vol.5
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【巻内特集】 ダイヤル付きスピードコントローラの小形化技術
Fig. 8はニードルを回転させたときにスライドギアに る。これらがクリック感となり使い手に伝わる。心地
形成されているギア(A)とギア(B)の動きにより、ダ 良いクリック感とするためばね荷重とギア形状にこだ
イヤル目盛が切り替わる動作を展開図として表したも わり、使い手の操作性向上に配慮しており、標準DSC
のである。 ではできない小形独自の特徴である。
初期の状態は、ばねの力により本体とダイヤル目盛
の歯車がかみ合っている。つまみを回転するとニード 4 おわりに
ルおよびスライドギアが一体に回転し、スライドギア
のギア(A)が本体の固定ギア(a)と接触する。これによ 製造装置において、見える化・定量化のニーズはさ
り、スライドギアは本体の固定ギア(a)の逆三角形に らに高まって行くと思われる。この市場の流れに対
沿って、回転と共に上下に移動する。このスライドギ し、業界最小サイズのダイヤル表示機構の技術は有
アの動きに合わせてギア(B)がダイヤル目盛の目盛歯 意である。
車(b)とかみ合い、ダイヤル目盛を1目盛分、つまり1 他のスピードコントローラへの展開だけではなく、
歯車分回動する。そしてニードルの回転に合わせ、本 他ジャンル製品への応用も考えていく。本小形化技術
体窓に回転数が表示される。 の展開と合わせ、更なる改善・革新により顧客に満足
中心(ニードル)の回転と一体となり直接ギアが動 頂ける商品を開発していく。
き、外側のダイヤル目盛を回転させる構造である。
以上の取組みにより、 ※1 公開番号 特開2017-48902
[従来比]
外径1/2、高さ2/3、容積1/6
の小形化を達成した。
Fig. 9 DSCと小形DSCの外観
その他の特徴として、数値表示が変化する際に“カ
執筆者プロフィール
チッ”というクリック感を追加し、機器の設置スペー
スおよび調整スペースが限られた場所で数値表示を
見られなくても数値の
変化が分かるような機
構となっている。
ダイヤル目盛が回動
する際、ばね荷重によ
る回転抵抗変化が触感 大石 崇 Takashi Ohishi
で伝わる。また、スライ コンポーネント本部
ドギアが上下方向に移 FAシステムBU 第1技術部
動する際、本体と接触 Engineering Development No.1
FA System Business Unit
す る 衝 突 が 音 で 伝 わ Fig. 10 小形DSCクリック感 Components Business Division
CKD 技報 2019 Vol.5 9
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巻内特集 テーマ「小形化」
酸素濃縮器用電磁弁の小形化技術
Miniaturization of Solenoid Valve for Use in Oxygen Concentrators
末松 修 Osamu Suematsu 岸 亮 Akira Kishi
超高齢社会を迎えた日本は、医療機関や介護保険施設等の受入れにも限界が生じることが予測される中で、
在宅医療は慢性期および、回復期患者の受け皿として、医療提供体制の基盤の一つとして期待されている※1。
当社では、在宅医療を受ける患者のQOL(Quality of Life)向上に貢献するため、自社の流体制御技術を活用し、
在宅酸素療法に使われる酸素濃縮器用電磁弁を開発した。本製品は、主に携帯用酸素濃縮器向けとして、「患者
さんが気軽に外出できるための手助け」をコンセプトに電磁弁の小形化を実現した。
本稿では、この小形化技術を紹介する。
Japan has become a super aged society, and the number of people that medical institutions and long-term
care insurance facilities can admit is predicted to reach a limit. Under these circumstances, home medical care
is expected to be an alternative choice for patients in the chronic and recovery phases and to be one of the
foundations for the medical care system1).
In order to contribute to the improvement of the quality of life (QOL) of patients receiving home medical care,
we at CKD have developed a solenoid valve for oxygen concentrators used in home oxygen therapy by
utilizing our fluid control technology. Based on the concept of“ helping patients leave their home freely”, we
accomplished to develop a solenoid valve that is small enough for use even in portable oxygen concentrators.
This paper describes the technology used in the miniaturization of the solenoid valve.
1 はじめに このような酸素ボンベの課題を解決するため、POC
の改良が進められている。POCを小形・軽量化するため
在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)用 に、POCに搭載される機器にも同じことが求められる。
の携帯用酸素濃縮器(POC:Portable Oxygen 当社では自社の流体制御技術を活用し、POC向けに
Concentrators)は、患者が気軽に外出を楽しめるこ 小形・軽量化を目指した電磁弁の開発に取り組んだ。
とを目的に、装置の小形・軽量化を目指している。社団
法人 日本呼吸器学会の調査によると、HOTを受ける 2 従来製品での課題
患者の約2割が外出しないと答えており、その理由の
半数以上に「携帯用酸素ボンベの問題」が挙げられてい 小形・軽量化の他に、電磁弁に求められる機能とし
る。外出しない患者の多くは、携帯用酸素ボンベを使 て、高濃度の酸素を供給するために、圧縮空気を最適
用しているが、「重い、人目が気になる、交換用ボンベ 流量流すことも必要である。
を持っていく手段がない」など、改善すべき点として、 当社製品の中からPOC用途として、小形・軽量化に
「重さ・サイズ・携帯性」を挙げている※2。また、米国で 特化した3QRシリーズ(直動式電磁弁)または、大流
は酸素ボンベを危険物とみなし、米国発着路線全ての 量を特長とするEXAシリーズ(パイロット式電磁弁)
飛行機への持ち込みを法律で禁じている。 が選定対象となる。3QRシリーズは、製品幅10mm、
重量19gと小形・軽量化のニーズにはマッチするが、
最大流量がPOC用途としては不足する。一方、EXA
シリーズは、最大流量は確保できるが、製品サイズが
ニーズにマッチしない。このように、電磁弁は「小形
であること」と「流量を流せること」は相反するもので
あり、両立させることが難しい。
3 薄型パイロット電磁弁SPシリーズの開発
小形化と大流量化の両立を実現したSPシリーズを
開発した。
最大流量の課題を解決するため、EXAシリーズと同
じダイアフラム弁構造を採用し、ダイアフラムを縦置
Fig. 1 酸素濃縮器回路例 きとする構造により、3QRシリーズと同じ製品幅
10 CKD 技報 2019 Vol.5
Page15
【巻内特集】 酸素濃縮器用電磁弁の小形化技術
Fig. 2 3QRシリーズ Fig. 3 EXAシリーズ Fig. 4 SPシリーズ
10mmの小形化(薄型化)を実現した。
ダイアフラム弁は、オリフィス径を大きく確保でき
る構造により、最大流量を上げることができる。しか
しその反面、ダイアフラムの外径分、製品サイズが大
きくなってしまう。従来、ダイアフラム弁はEXAシリー
ズのように大概横置きとする構造であったが、この定
説を覆す発想により小形化を可能とした。
Fig. 5 EXA、SPシリーズ分解図
Fig. 6 流体解析結果
また、本製品は業界初の旋回流路構造を採用し、薄
型・扁平流路であっても更なる大流量化を可能として
いる。
製品幅を10mmとしたことで、ダイアフラムスト
ロークを多く取れず、IN・OUTポートの流路断面積も
小さくなってしまう。大流量化実現のためには、ロス
の無い効率の良い流路構造が必要となる。そこで、サ
イクロンの原理を基に旋回流路構造を採用した。Fig.6
の流体解析結果が示すように、流体が流路内で旋回流
を形成し、従来品(EXAシリーズ)に比べ効率良く流れ
ていることが分かる。また、実測データにおいても、製
品幅10mmで従来比3倍の流量を流せることが確認で
きた。 Fig. 7 流量測定結果
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4 バリエーション・シリーズ展開 5 おわりに
SPシリーズは、IN・OUTポートが同一面にあること 国内でのPOC普及率はかなり低い現状だが、装置の
から、装置スペースに合わせた様々なマニホールド対 小形・軽量化により、患者さんにとっての使い勝手が
応が可能である。酸素濃縮器は、電磁弁を吸気側と排 向上されれば、今後需要は高まっていくと考えられる。
気側で各2ヶ(計4ヶ)使う構造であり、Fig. 8のように 当社としては新しい要求に対し、今後も従来技術の
ノーマルタイプや薄型タイプのマニホールド化がで 応用と、更に新しい技術も取り入れ、付加価値の高い
き、装置の省スペース化に貢献できる。 魅力ある製品を開発し、社会に貢献していきたいと考
える。
※1 厚生労働省:在宅医療の体制構築に係る指針(平成24年)
※2 一般社団法人 日本呼吸器学会:在宅呼吸ケア白書(平成25年)
※3 出願番号:特願2014-159780
Fig. 8 SPシリーズ・マニホールド例
更に、IN・OUTポートの流路断面積を増やすことで、
更なる大流量化が可能である。製品幅を3mm広げるだ
けで、流量が1.8倍(⊿P=0.2MPa時)になることが確
認でき、これは多くのHOT患者が使用する据置用酸素
濃縮器にも展開できる。
執筆者プロフィール
末松 修 Osamu Suematsu 岸 亮 Akira Kishi
コンポーネント本部 コンポーネント本部
制御システムBU 技術部 制御システムBU 技術部
Engineering Department Engineering Department
Fluid Control System Business Unit Fluid Control System Business Unit
Components Business Division Components Business Division
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PTPシート・打ち抜き・印刷ズレ検査装置の開発
PTPシート・打ち抜き・印刷ズレ検査装置の開発
Development of Blister Sheet Inspection Machine for Punching and Printing Displacement
神戸 聡 Satoshi Kanbe
当社は、PTP包装工程内にカメラを搭載したインライン検査システム「フラッシュパトリ」シリーズを、1980年代から
展開している。現在では様々な機種がラインナップされ、工程内で発生し得る様々な不良を検査できるようになった。
そして2018年には、フラッシュパトリでは初となる、PTP包装機の最後の工程「シート打ち抜き後」の検査装置を
リリースした。
PTPシート打ち抜き後特有の不良である、打ち抜きズレは、外観品質の観点だけでなくPTPシートの目的である防
湿性の担保という面から見ても重要な検査である。
本稿では、PTPシート打ち抜き後の検査装置フラッシュパトリUタイプについて紹介する。
Since 1980s, we have launched in-line inspection system“ Flash Patri” series using camera system to
be equipped on pharmaceutical blister packaging machines.
As of today there are various models available in this lineup, enabling to inspect various defective
items which are likely to happen in the pharmaceutical blister packaging process.
In 2018 the inspection machine model for“ inspection after blister sheet punching” (last process of the
blister packaging machines) has been released for the first time in Flash Patri series.
Punching displacement, which is special to inspection after blister sheet punching, is considered
critical inspection item not only from the view of outer appearance quality but from the view of
ensuring moisture proof as an original purpose of blister sheet.
This article introduces in-line inspection machine Flash Patri U type for“ inspection after blister sheet
punching”.
1 はじめに このような背景の中、当社ではPTPシート生産ライ
ンの目視検査の無人化に貢献すべく、打ち抜き後特有
錠剤・カプセルなどの包装に用いられるPTPシート の不良を検査する「フラッシュパトリUタイプ」を開発
の生産ラインには、不良品の混入を防ぐため、包装機 した。(Fig. 1)
の各工程に検査装置が搭載されている。近年では、錠
剤の有無や割れ欠け、異物付着といった重大欠陥を検 2 打ち抜き後検査の重要性
査する、アルミ蓋材のシール前およびシール後工程の
検査装置は、製薬メーカにとって必要不可欠な設備と 打ち抜き後特有の不良として、シート端面から錠剤
なっている。メーカによっては、これらの工程に検査 が充填されたポケットまでの距離が適正でない「打ち
装置を搭載することで、品質が保証できると判断し、 抜きズレ」、アルミ蓋材に印刷されたデザインが適正な
目視検査員をラインから外して製品の生産を行ってい 位置でない「印刷ズレ」が挙げられる。(Fig. 2)
る。しかし一方で、最後の工程となる打ち抜き後に発
生し得る不良を検査する装置が無いため、「目視検査
員を外すことに不安がある」という声も少なくない。
Fig. 2 打ち抜きズレ・印刷ズレ不良
これらの不良が与える影響は、PTPシートの外観品
質を損ねるだけではない。例えば、「打ち抜きズレ」が
発生し、シート端とポケットが近接し過ぎることで、
PTPシートの本来の目的であるシール機能の気密性
Fig. 1 PTPシート生産工程と検査 に影響を与える場合がある。(Fig. 3)
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3 打ち抜き後検査装置フラッシュパトリU
当社では、2003年よりシール前およびシール後
工程の不良を検査する「フラッシュパトリ」という外
観検査装置をシリーズ展開している。今回、打ち抜
き後特有の不良を検知するため、フラッシュパトリ
では初となる、PTPシート打ち抜き後の工程にて検
査を実施するUタイプを開発した。本検査装置は、最
後の工程となるシートの打ち抜きが完了した後、打
ち抜いたシートがコンベアで搬送される途中で撮影
Fig. 3 PTPシート 気密性の確保 を行い、異常の有無を検査する。(Fig. 5)
フラッシュパトリUは、当社PTP包装機のフラッグ
また、現在のPTPシートには製品を識別できるよ シップモデルFBP-600Eシリーズの搬送コンベアに
うにバーコードの表示が義務付けられており、主に 搭載できるよう、カメラや光源筐体を収納した撮影機
PTPシートの裏面、つまりアルミ蓋材の裏面には 構を小型化した。特に、打ち抜きズレ検査・印刷ズレ
バーコードが印刷されている。「印刷ズレ」が発生し、 検査を1台のカメラで実施できるよう、フラッシュパ
アルミ蓋材の印刷デザインが正規の位置からズレる トリFP630で採用した、光伝送による画像の高速撮
ことで、裏面のバーコードの位置も同様にズレが発 影・転送技術を利用して、撮影機構の小型化を実現し
生する。PTPシートのサイズやバーコードの印刷の ている。
位置によっては、僅かにズレただけで、バーコード
リーダでの読み取りの正確性が損なわれる場合があ 3-1 既存検査装置との違い
る。(Fig. 4) ①回転補正機能
本検査装置が既存のフラッシュパトリと大きく
異なる点として、打ち抜いたシートに対して撮影・
検査を行うことが挙げられる。
従来の検査装置は、シートが打ち抜かれる前、
つまり帯状のシートに対して検査を行う。帯状の
シートは機械内のローラで常にテンションを保っ
た状態で搬送されるため、検査対象となる錠剤や
シートは比較的安定した姿勢で検査をすること
が可能である。
しかし打ち抜き後の工程では、コンベア上にシー
トが1枚ずつ乗った状態で搬送されるため、シート
の姿勢は安定しない。特に打ち抜き前の工程では起
こり得ない、検査対象となるシートの回転が発生す
Fig. 4 印刷ズレ バーコードへの影響 るため、この対策を行う必要がある。(Fig. 6)
Fig. 5 PTP 機搭載フラッシュパトリU
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PTPシート・打ち抜き・印刷ズレ検査装置の開発
の位置を正確に抽出する必要がある。
しかし、検査対象のシートが回転する打ち抜き後
の検査では、単純な画像処理の技術のみで、正確に
デザインの位置を抽出することは困難である。
本検査では、フラッシュパトリFP630の機能の一
つである錠剤印刷マスク機能を応用し、シートデザ
インの形状を認識する技術を導入した。錠剤印刷マ
Fig. 6 検査工程による撮影画像の違い スク機能では、錠剤印刷の形状や錠剤の回転に合わ
シートの回転に対応するため、フラッシュパトリU せて、最適な検査除外範囲を自動認識,設定するこ
には回転補正の機能を搭載し、常にシートが水平な とができる。これをシートデザインに実施すること
状態と同等の検査が可能となっている。検査対象の によって、回転するシートであっても、デザインの
シートが回転しても、ソフトウェアで水平状態から 正確な座標を計算することができるようになり、計
どれだけ傾いたかの計算を行い、傾いた分の検査枠 測精度を高めることができる。(Fig. 8)
の追従、計測量の補正を自動で行う。
②ポケット輪郭抽出機能
既存のフラッシュパトリは、錠剤やシートといっ
た被写体が非透明体で、撮影画像上に明暗の差を写
し出しやすいものが検査対象となっている。
打ち抜きズレ検査では、シート端とポケット輪郭
との距離が重要な要素となるため、ポケット輪郭を
撮影画像上に写す必要がある。しかしポケットは透 Fig. 8 錠剤印刷マスクとシート印刷マスク
明体で、光源からの光を透過しやすいため、従来の
撮影方式では撮影画像上に写すことが困難である。 3-2 検査原理
フラッシュパトリUでは、光源の照射方法を見直 フラッシュパトリUは、以下の流れで打ち抜きズレ
し、透明体のポケット輪郭を光らせることで、画像 および印刷ズレの検査を実施する。
上に鮮明に写し出すことができる撮影機構となって ①シートの撮影
いる。(Fig. 7) 搬送コンベアの駆動に合わせ、打ち抜いたPTP
シートの撮影を1シート単位で実施する。1枚のシー
トに対し、打ち抜きズレ検査に使用する「近赤外発光
+白黒画像撮影」と、印刷ズレ検査に使用する「白色
発光+カラー画像撮影」の計2回撮影を実施する。
②シート端の抽出
予め設定した、シート4辺の端を抽出する検査枠
から、背景となるコンベアとシートの明暗の差を利
用してシート輪郭を抽出する。
併せて、そのシート輪郭の傾きが、シート水平状
Fig. 7 錠剤とポケット撮影
態に対して何度傾いているかを計算によって求め
また、ポケット輪郭の抽出精度を上げるため、光 る。(Fig. 9)
源には近赤外光を利用している。近赤外光の特性を
利用すると、特殊なインクを使用したアルミ蓋材の
印刷デザインは消えてしまい、まるで無地のアルミ
を撮影したような画像となる。これにより、印刷デ
ザインのようなポケット輪郭の抽出の妨げとなる外
乱要素を取り除くことができる。
このように、撮影画像上に写し出されたポケットに
対して、ソフトウェアでポケットの輪郭および中心を
抽出して、そこからシート端までの計測処理を行う。
③アルミデザインの抽出機能
PTPシートとアルミ蓋材のデザインの位置関係
の良否を検査するために、シート上の印刷デザイン Fig. 9 シート4辺の抽出と傾き計算
CKD 技報 2019 Vol.5 15
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Fig. 10 ポケットの抽出と距離計測 Fig. 11 印刷デザインの抽出と距離計測
③打ち抜きズレ検査 不良検知時の動作は、該当シートをPTP包装機
上述3-1②項に記載した方法で、ポケット輪郭 から排除する系外排出以外に、打ち抜きのズレ量が
を抽出し、シート上の全ポケット中心位置からシー 大きい場合は、PTP包装機の打ち抜きの機構に異
ト端までの距離を計測する。 常が発生した可能性があると判断し、機械の稼働を
シートが傾いている場合は、その傾き分の補正を 停止させる処理を行う。
行い、距離計測を行う。(Fig. 10)
④印刷ズレ検査 4 ズレ量のグラフ表示
上述3-1③項に記載した方法で、シート上の印
刷デザインの中心位置からシート端までの距離を 本検査装置では、画像検査した打ち抜き・印刷のズ
計測する。打ち抜きズレ検査と同様に、シートが傾 レ量をmm換算して検査を行っている。
いている場合は、その傾き分の補正を行い、距離計 これらのズレ量データは生産中でも、直近600枚
測を行う。(Fig. 11) のデータをグラフで閲覧できる。
⑤不良判定 ズレ量の傾向を監視することで、打ち抜きズレおよ
③、④項で計測した距離が、検査仕様となる び印刷ズレの不良が突発的に発生したものなのか、ま
±1mmの不良判定値を超えた場合、打ち抜きズレ たは時間経過によって徐々に発生したのかを確認で
または印刷ズレと判定し、該当シートを不良とする。 き、不良発生要因の解析に利用できる。(Fig. 12)
Fig. 12 打ち抜きズレ量のグラフ表示
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