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永年当社が蓄積してきた自動化を革新するための課題、問題解決への技術・研究開発の成果を技術情報としてご紹介いたします。
・成形ポケット決定までのアプローチ紹介
・農業分野機器における遠隔制御・監視技術の確立
・活性炭フィルタのシロキサン除去性能評価
・レタス栽培に於ける風によるチップバーン抑制効果
・透明体検査技術
・薬品包装機の位置合わせ技術
・基板のボンド検査技術
・アクチュエータの比例制御技術
・サーボゲイン自動調整システム“NiEAT”
・全体最適への生産性改善活動
このカタログについて
ドキュメント名 | 【技術資料集】CKD技報 Vol.8 (2022年) |
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ドキュメント種別 | その他 |
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取り扱い企業 | CKD株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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報
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CKD技報 Vol.8
CKD Technical Journal
2
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00_企業理念_目次_ごあいさつ[1-3]
規準
規準
1 CKD 技報 2020 Vol.7
Page3
目次
目次
ごあいさつ 1
巻内特集 テーマ「環境」
成形ポケット決定までのアプローチ紹介 2
農業分野機器における遠隔制御・監視技術の確立 6
活性炭フィルタのシロキサン除去性能評価 10
レタス栽培に於ける風によるチップバーン抑制効果 15
透明体検査技術 21
薬品包装機の位置合わせ技術 25
基板のボンド検査技術 28
アクチュエータの比例制御技術 32
サーボゲイン自動調整システム“NiEAT” 37
全体最適への生産性改善活動 42
CKD 技報 2022 Vol.8 2
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Table of Contents
Greetings 1
Special Report on“ The Environment”
Introduction of an approach to decide the specifications of a formed
pocket 2
Establishment of Remote Control and Monitoring Technology for
Agricultural Equipment 6
Evaluation on the Performance of Siloxane Removal in Activated
Carbon Filters 10
Tipburn-suppression by wind in lettuce cultivation 15
Inspection technology for transparent object 21
Alignment Technology of Pharmaceutical Blister Packaging Machine 25
Technology for Glue Inspection 28
Proportional Control Technology in Actuators 32
Automatic Servo Gain Adjustment System,“ NiEAT” 37
Productivity Improvement Activities for Total Optimization 42
3 CKD 技報 2020 Vol.7
Page5
ごあいさつ
持続可能な社会の実現に向けて
“ Towards the realization of a sustainable
society”
林田 勝憲 Katsunori Hayashida
CKD株式会社
取締役常務執行役員
品質・安全・環境担当
CKD Corporation
Director and Managing Executive Officer
Management on Quality, Safety and Environment
世界的に新型コロナウイルスの感染が未だ収束し The COVID-19 pandemic has still not been
ておらず、一時は沈静化したかに見えた欧米や日本 brought under control worldwide, and mutant
strains are now running rampant in Europe, the
においても変異株が猛威を振るっています。そして US and Japan, where infections seemed once to
多くの製造業界では、アセアンを起点としたサプラ have subsided. Also, supply chain disruption has
occurred in many manufacturing industries,
イチェーンの混乱が生じ、様々な製品の生産に多大 originating in the ASEAN countries, and these
な影響を及ぼしました。また、半導体をはじめとし have had significant impacts on the production of
various products. In addition, partly because of
た電子部品の需要拡大による供給不足や、北米での supply shortages due to the expansion of demand
記録的な寒波の影響等による樹脂材料の逼迫なども for semiconductors and other e lectronic
あり、様々な製品において需要と供給のバランスが components, and the tightness of plastic materials
due to the impact of the record-breaking cold
崩れています。 wave in North America, the balance between the
このような状況の中、モノづくりの現場において demand and supply of various products has
broken down.
も以前とは全く異なる考え方が必要となってきてお Under such circumstances, completely different
り、従来行われてきた対面でのコミュニケーション ways of thinking have become necessary in the
field of manufacturing, and we are also seeing
ではなくリモートでのコミュニケーションやデジタ major changes in the ways we do our jobs,
ル化など、働き方も大きく変わってきています。ま including remote communication and digitalization
instead of the face-to-face communication we
た、企業には高品質や低価格の商品だけではなく、 engaged in previously. Further, in addition to high
SDGsやカーボンニュートラルへの取り組みが必須 quality, low cost products, it is essential for
となっており、例えば自動車業界においては急速な companies to implement initiatives aimed at the
SDGs and carbon neutrality. Consideration for the
電動化への取り組みなどグローバルで地球環境への global environment is indispensable, such as
配慮が必要不可欠となっています。 efforts towards rapid electrification in the
automobile industry, for example.
今回お届けするCKD技報Vol.8の巻内特集は「環 The special report in this CKD Technical Journal
境」です。様々な業界で従来とは異なる取り組みが Vol. 8 is on “ The Environment”. Different
approaches to the past are required in various
求められており、農業ビジネスへのテーマなどCKD industries, and CKD will also make proposals we
としても今までにないご提案をいたします。 have never made before, such as themes for
agricultural business.
CKDグループは持続可能な社会の実現に向けて The CKD Group will move forwards with its
お取引先様と共に歩んでまいります。 business partners towards the realization of a
引き続き皆様からのご指導、ご鞭撻をよろしくお願 sustainable society.
We thank you for your continued support and
い申しあげます。 welcome your guidance and suggestions.
CKD 技報 2022 Vol.8 1
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01_成形ポケット決定までのアプローチ紹介[4-7]
巻内特集 テーマ「環境」
成形ポケット決定までのアプローチ紹介
Introduction of an approach to decide the specifications of a formed
pocket
山田 健朗 Tatsuro Yamada
当社はブリスタ包装機という機械を持ち合わせている。「ブリスタ包装機で食品を包み保存する」昔から変わらな
いシンプルなこのシステムに対して、近年ではCKDの新技術を付加し、お客様、包材メーカーと共に更なる食品の
安全確保やロングライフ化に貢献している。現在容器側の材料にはプラスチックを使用しているが、世界は持続可
能な社会の実現に向けて「脱プラ」へと大きくシフトしている。包装機能や生産性を落とさず、包装材料の使用量が
最少になるような最適な成形ポケットの決定の仕方を紹介する。
We manufacture and sell blister packing machine. In recent years, the new technology of CKD has been added
to the simple system, which has remained unchanged for a long time, namely blister packaging machine for
packing and preserving food, and it has been contributing to the food safety and to the long life together with
customers and packaging material manufacturers. Plastic is currently used as the material for container side,
but the world is shifting significantly to "plastic free" to realize a sustainable society. This article will introduce
the method for determining an optimum formed pocket with minimum use of packaging material, not sacrificing
the packaging function and productivity.
1 はじめに 3 ブリスタ包装の導入検討
ブリスタ包装とは、容器フィルムを加熱し成形した 初めてブリスタ包装を検討する場合、どのような包
ポケットに内容物を入れ、蓋フィルムを熱シールなど 装の形になるか見当がつかないケースが多い。
で接着し封をする包装形態である。 まずは包装したい内容物の形状や用途に合わせ、包
本稿では、当社の蓄積された知見と技術により、ブ 装品の3Dモデル(Fig. 1)を作成し、包装品イメージの
リスタ包装を希望されるお客様に対して包装仕様確定 共有を図る。次にこの3Dモデルデータを使用し3Dプ
まで多角的にサポートする内容を紹介する。 リンタで簡易型(Fig. 2)を作る。その簡易型を当社保
有の真空成形機にセットし、容器フィルムを成形する。
2 ブリスタ包装の目的とメリット この工程により実物のポケットサンプル(Fig. 3)を数
日以内で作ることができる。3Dモデルだけではなく、
包装の最も一般的な目的は、内容物の保護である。 ポケットサンプルの実物を確認することで、細かな形
ポケットに強度を持たせることで、輸送時に発生する 状やデザインなど、製品化に向けてのより具体的な検
外力による内容物の破損や変形を防ぐ。また食品につ 討ができる。
いては、酸化や菌類による腐食や変質から守るために、 またこのような取り組みを事前に行うことで、具体
バリア性のある容器フィルムを使用したり、シールで 的な製品化やブリスタ包装機の導入検討時間が大幅に
の密閉性を上げることで内容物を保護する。 短縮できる。
また内容物の保護だけでなく、輸送、整列や陳列し
やすくすることも目的の一つである。包装対象品の形
状を一様化することで、液体やジェルなどの不定形の
もの、個体差のある食品などの内容物も扱いやすくで
きる。
成形ポケット形状の自由度が高いため、デザイン性
を追求し、さらに透明フィルムを使用することでの内
容物の可視化も可能。文字や情報を書き込むスペース
の確保により、内容物の説明や価値も付加できる。
ブリスタ包装は、成形ポケット形状の自由度の高さ、
容器フィルムの選択肢が広く、メーカー、運送業者、小
売店、さらには消費者まで、幅広くメリットを享受で Fig. 1 ポケット3Dモデル
きる包装形態である。
2 CKD 技報 2022 Vol.8
Page7
【巻内特集】 成形ポケット決定までのアプローチ紹介
容器フィルムを選定する際、この成形テスト機は非
常に有効である。なぜなら、容器フィルムは機能や厚
み、特性、メーカーが多種多様であり、成形性や成形後
の厚みや強度などブリスタ包装に適しているかどうか
を考慮しなければならない。当社技術員が成形テスト
機にて様々な容器フィルムに対して最適な条件を探索
し、お客様にサンプルを提示することで、容器フィル
ム選定の検討時間が大幅に短縮できる。
最近話題になっているバイオマスや不織布などの新
しい材料にも対応しており、事前に成形検証をしっか
Fig. 2 簡易型 り行うことで、お客様と包材メーカーとの橋渡し的な
役割も果たしている。
Fig. 3 成形されたポケットサンプル
4 成形ポケットの包材の選定
当社包装機のポケット成形方式はプラグアシスト圧
空成形を採用している。プラグアシスト圧空成形とは、 Fig. 5 成形テスト機
Fig.4に示すように加熱された容器フィルムを上型と
下型で構成される成形型にて挟み、次に成形プラグで
容器フィルムを途中まで成形し、最後にエアブローに 5 より量産に近い形へ
て下型の形状に沿って成形する方式である。材料の特
性、加熱温度、時間、プラグの動作量やタイミングなど 容器フィルム及び成形ポケット形状が決定したら、
様々なパラメータが存在し、条件を変えることで成形 次のステップに移行する。
されるポケットの状態も変化する。 当社では食品包装機CFF-360Eを保有している。
CFF-360Eはサーボモータを多数搭載しており、パラ
メータ設定が操作パネルにて容易に可能であり、調整
のしやすさと再現性の高さが特徴の最新機種である。
この機械は展示してあるだけでなく、実際に稼動し
様々なテストが可能である。実生産により近い環境で
テストすることで、図面や成形テスト機だけでは洗い
出せないリスクを発見することができる。
Fig. 4 プラグアシスト圧空成形概要
様々な容器フィルムに対して最適なポケット成形が
事前検討及び作成できるよう、成形テスト機(Fig.5)を
自社製作した。この成形テスト機はフィルムの加熱時
間、成形時間など、細かい調整ができるようなシステ
ムを搭載している。 Fig. 6 食品包装機 CFF-360E
CKD 技報 2022 Vol.8 3
Page8
5-1 型を使用しての充填テスト 5-3 生産能力の確認
容器フィルム原反をチャック機構にて搬送、フィル 容器フィルムの種類や厚みなどの要因により、成形
ムを加熱し、ポケットを作成する。その後内容物をポ にかかる時間は変動する。厚みがあるほどフィルムに
ケット内に充填し、蓋フィルムでシール後、打抜きま 与える熱量が増えるため、成形にかかる時間は増える
で実施する。充填機は内容物によって仕様が異なるた 場合もある。使用する容器フィルムが決まっている場
め、充填は人手にて実施する。 合、CFF-360Eを用いて調整を行うことで、実生産と
当社保有型には様々なサイズがあり、内容物の量や、 同じ条件まで近づけることができる。機械の生産能力
包装後の形によって選択が可能である。もし実製品と を予め確認することにより、導入後の量産計画をより
同形状でのテストを要望される場合は、各型を製作し 確かなものにする。
対応することもできる。実際の製品に近い、もしくは
同じサンプルができるため、お客様の色々な事前評価 5-4 窒素置換
に貢献する。 食品の中には、酸化を嫌うものも多数存在する。当社
では、内容物の酸化防止を目的とした窒素ガス精製ユ
5-2 蓋フィルムのシール性 ニットもラインアップしている(Fig.9)。フィルム特性の
蓋フィルムと成形されたポケットを熱圧着にてシー 事前確認に加え、内容物の保存性を高めるテストも実施
ルする。内容物の保護にはシールが必要であり、内容物 できる。この装置はユニットとなっているため、当社包
によっては密閉性も求められる。シール性、密閉性とは 装機に限らず様々な機械に搭載可能で、多数実績もあり
開封性と背反するが、そのどちらも成り立つような調整 さらに今後も導入事例が増えていくと見込んでいる。
をしサンプル作成を行う。シールされたサンプルについ このような食品のロングライフを実現する技術力を
て開封しやすさや密閉性を確かめることができる。 実感することができる。
また、開封時の力の測定も行っている。開封しやす
さという感覚的な評価では良否の判断がしづらいた
め、当社試験機により、開封時の力を数値・グラフ化が
可能である(Fig.7)。感覚と数値の両面から確認でき、
仕様確定のより確かな根拠となる。
Fig. 9 窒素ガス精製ユニット
6 成形ポケットに更なる可能性
ポケットの形状を工夫することで、強度、デザイン
Fig. 7 剥離試験の様子
以外に特別な機能を持たせることも可能である。例え
ばポケット自体に特殊な形状を施すことで、内容物を
保持する機能を付加することができる。内容物を保持
する役割と取り出しやすさの両面においてバランスが
必要であり、試作成形型を0.1mm違いで作ることによ
り、お客様の細やかな要求に応えた実績もある。
またワンハンドで開封できるVパック(Fig.10)とい
う特殊な包装形態にも対応している(CKD技報Vol.6
にて詳細を記載)。ポケットの形状を工夫することで、
開封性を今までとは全く違うものにすることもできる。
このような今までにない付加価値をブリスタ包装に
Fig. 8 剥離試験結果例(グラフ) 持たせるという新しい試みも、今まで記述したステッ
プにて実現している。
4 CKD 技報 2022 Vol.8
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【巻内特集】 成形ポケット決定までのアプローチ紹介
Fig. 10 Vパック開封の様子
7 環境への配慮 Fig. 12 成形ポケット配置最適化 (イメージ)
7-1 包装材料厚みの最少化 プラスチックである包装材料の使用量を最少にする
容器フィルムの厚みを薄くするほど、成形ポケット ことで、環境への配慮、ランニングコストの削減に大
の強度は下がる、逆に厚くするほど強度は増すが、使 きく貢献している。
用する資材の量は増えることになる。
本稿で述べてきたように事前のシミュレーションや 8 おわりに
テストにより、包装機能を落とさず、包装材料の厚み
が最少になるような最適な成形ポケットを決めること 本稿にて記載した内容に具体的な数値を明記してい
ができる。 ないのは都度お客様の要望に沿った提案を行っている
ためであり、営業から技術、製造に至るまで一体とな
7-2 スクラップ量削減 り細やかな対応を行っている。
容器フィルム原反からいかに効率よく成形ポケット 当社と共に包装のイメージを具現化し、密着したサ
を作り出せるかを検討している。複雑な形状のポケッ ポートと製品サンプルを文字通り肌で感じていただき
トを単調に並べるのと交互や千鳥のように配置するの たい。
では、製品にならないスクラップ部分の廃棄量が大き
く異なる。
しかし成形ポケットを密に配置しすぎると、打抜工
程にて使用する打抜型の剛性が不足してしまう。よっ
て事前に打抜型の強度解析シミュレーションを行い、
検討した成形ポケットの配置が成り立つかどうか、打
抜型の剛性を確認している(Fig.11)。
この確認結果も踏まえ、最適なポケット配置を決定
し、スクラップ廃棄量が最少になるような提案を行う
ことができる(Fig.12)。
執筆者プロフィール
山田 健朗 Tatsuro Yamada
Fig. 11 打抜型強度解析の様子 自動機械事業本部
Automatic Machinery Business Division
CKD 技報 2022 Vol.8 5
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02_農業分野機器における遠隔制御・監視技術の確立[8-11]
巻内特集 テーマ「環境」
農業分野機器における遠隔制御・監視技術の確立
Establishment of Remote Control and Monitoring Technology for
Agricultural Equipment
小久保 純一 Junichi Kokubo
近年、日本の農業分野では、スマート農業化と共に環境政策及びSDGsやバイオ技術を加えた新たな取り組みが
推進されたことで、様々な課題が見えている。その課題を解決する技術として、当社のスマート農業向け制御機器で
は、遠隔制御における安心・安全技術、及び制御実績の見える化技術を確立した。その技術は電磁弁などの機器制御
ノウハウに、IoT・クラウドのテクノロジーを組み合わせ、安心感のある確実な遠隔制御を行うもので、農作業の労
力削減につながると考えている。また、現場の制御実績を遠隔地からも見える化すれば、農作物の品質向上や、水・
肥料の省資源化に役立つとも考えられる。本稿では、これらの内容について紹介する。
In recent years, the agricultural field in Japan has been facing various challenges due to the
promotion of environmental policy and new initiatives that include SDGs and biotechnology, as well as
smart agriculture. To address these issues, CKD has established a safe and secure technology for
remote control that allows visualization of control results in our control devices for smart agriculture.
This technology combines the know-how of controlling devices such as solenoid valves with IoT and
cloud technology to provide secure and reliable remote control, which we believe will lead to a
reduction in labor required for agricultural work. In addition, if the control results on-site can be
visualized from remote locations, it could help improve the quality of crops and save water and
fertilizer. This paper presents an overview of this technology.
1 はじめに
現在、日本の農業分野では人口減少・高齢化による
労働力不足や作業負担の解決策としてスマート農業化
が進められている。さらに、農林水産省の農林水産研
究イノベーション戦略2020では、スマート農業に、環
境政策及びSDGsやバイオ技術を加えたイノベーショ
ンの取り組みを策定している。 Fig. 1 スマート農業機器の実証実験の様子
環境政策としては、温室効果ガスの削減や、灌漑農 2 実現における課題
業の普及による急速な水不足の進行、それに伴う農地
の悪化を防ぐ取り組みが求められている。SDGsの観 スマート農業では、大規模農場や遠方の農場を管理
点でも、食料の持続的確保のため、水や肥料の環境保 する際の労力低減・効率向上のため、灌水電磁弁やビ
全、温暖化による気候変動や自然災害に対応できるシ ニールハウスの窓・カーテンの巻き上げ機、換気扇と
ステム構築などの取り組みを課題としている。 いった機器の遠隔制御が必須となる。遠隔制御の通信
当社では、これまでも農業向け灌水電磁弁を製造し 方法は、農場の立地を考慮し移動体通信(携帯電話回
ているが、2018年よりスマート農業用の制御機能を 線)が主流であるが、有線通信や近距離無線と比べる
備える機器を開発している(Fig. 1)。スマート農業に と不安定な通信方法であり、確実な遠隔制御を行うた
おける自動化で、労働力不足の解消・負荷軽減、データ めの安心・安全な通信品質が求められる。
活用による作物の品質・経営効率向上に加え、省資源 また遠隔制御により得られる機器やセンサーのデー
や環境政策に適応する製品を目指している。 タは、そのままでは分析が困難な形のログデータとし
て蓄積される。データを農業経営者や作業者が分析に
使用したり、他のスマート農業システムと連携したり
と有意義に活用できるように、実用的な形で見える化
することもスマート農業における目標となる。
以上のように、スマート農業向け機器の開発にあた
り次の2点の技術を確立することが課題となった。
・遠隔制御における安心・安全技術
・制御実績の見える化技術
6 CKD 技報 2022 Vol.8
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【巻内特集】 農業分野機器における遠隔制御・監視技術の確立
3 技術の確立 データ転送用通信プロトコルで、特に通信データ
量が小さく、限られた通信帯域で効率良く通信で
当社でノウハウのある電磁弁など機器制御の知識 きる。クラウドにはLwM2Mのライフサイクル管
に、新しい取り組みであるIoT・クラウドのテクノロ 理を構築し、デバイスの接続・切断・状態変化・
ジーを組み合わせ、課題解決に挑戦した(Fig.2)。 ファーム更新などのイベントに応じて、デバイス
の初期化など必要な制御を行うことができる。
<課題への対応>
遠隔制御における課題として、農家が遠隔地か
ら操作を行う際に現場の状態が直接見えないこと
による不安感を解消する必要がある。対策として、
機器から農家へのフィードバックを工夫した。例
えば、灌水のため電磁弁を開く操作をした場合、
接続された流量センサーの実測値を根拠として実
際に水が流れていることを表示する。このように、
遠隔制御に対して安心できるフィードバックを応
Fig. 2 技術コンセプト 答する方針とした(Fig. 4)。
3-1 遠隔制御における安心・安全技術
遠隔制御に関するシステム構成図をFig. 3に示す。
この中で、①IoTデバイス通信と②API連携について、
技術概要と課題への対応内容を解説する。
Fig. 4 農家へのフィードバック画面
次に、遠隔制御の安心感を高めるクラウドの施策と
して、通信の再試行方式と負荷軽減方式を確立した。
移動体通信の欠点である不安定さを補うため、作動要
求に関する通信失敗時の再試行が必須となる。これに
Fig. 3 遠隔制御システム構成図
ついては独自にLwM2Mプロトコルに最適化した再試
行判断ロジックと、指数関数的後退手法(Exponential
①IoTデバイス通信 Backoff)による再試行方式(Fig. 5)を用いることに
農家のモバイル端末や外部のスマート農業シス より再試行の効率を高めた。その結果、遠隔制御の可
テムから、当社のクラウドプラットフォーム(以降、 用性は99.11%から99.99%に向上した。ここでいう
クラウドと記す)を通じて、農場にあるIoTデバイス 可用性とは、通信処理数に対する成功率を表す。試験
である遠隔制御対応機器に指示を送る。それにより 環境上では1ケ月あたり約200万回の通信処理に対し
電磁弁を開け灌水を行うなどの遠隔制御を行う。 て、約3,000回分の通信失敗を救っている。
クラウド・IoTデバイス間の通信方式には様々な また、リアルタイムなデータ取得要求ではクラウド・
選択肢があるが、移動体通信の規格としてLTE デバイス間通信速度や機器内マイコンの処理性能が
CAT.1、通信プロトコルとしてLightWeightM2M ネックになることがある。これに対しては、クラウド
(以降、LwM2Mと記す)を採用した。LTE CAT.1 側で一時記憶したデータを再利用し、デバイス側の負
は、LTE規格の中で電力消費が少なくIoTデバイ 荷を肩代わりする負荷軽減方式(キャッシュによるオ
ス向けである。LTE規格は日本国内で通信可能な フロード)にすることで、データ取得要求の応答時間を
サービスエリアがすでに整備されているため、 25%削減した。独自実装により高価なサービスは利用
様 々 な 農 場 を カ バ ー で き る 点 が 有 利 で あ る 。 せず、クラウド設備コストは最小限に抑えている。
LwM2Mは、IoTデバイス向けのデバイス管理・
CKD 技報 2022 Vol.8 7
Page12
Fig. 5 指数関数的後退手法による再試行方式 Fig. 6 運転実績の参照画面
②API連携 ・メンテナンス…当 社サービス業務からは、機器に含む
AP(I Application Programming Interface) 消耗部品の使用度合いや、機器の稼働
とは、ソフトウェアやシステム間で制御指示などを ログデータとして、例えば電磁弁作動
やりとりするインターフェースである。当社のクラ 回数の推移グラフを参照(Fig. 7)する
ウドでは、クラウドシステム間のAPIを用意してお ことができる。これにより遠隔サポー
り、外部のスマート農業システムからの制御や情報 トや、予防保全、消耗品交換等のサー
連携ができる。他社の温湿度などの環境モニタリン ビスにつなげることができる。
グデータに応じて当社の制御機器を作動させ環境
制御を行うといったサービスが実現でき、双方の
サービス・製品の価値を高めることができる。
<課題への対応>
このAPIでは、主にセキュリティ観点での安全性
と可用性を高める施策として、標準的なHTTP
REST APIプロトコルと、RFC6749 OAuth2.0
に準拠した認証認可方式を採用し、追加で機器別の
アクセス制御を用意した。これにより、セキュリ
ティを確保しながら、同時に複数のスマート農業シ
ステム・企業との連携が可能になった。 Fig. 7 稼働ログデータ・推移グラフの参照画面
3-2 制御実績の見える化技術 ・異常通知…農 家、当社サービス業務ともに機器が異
見える化に関する機能として、運転実績、メンテナ 常を検知した際にEメールの通知を受け
ンス、異常通知といった機能がある。これらについて、 取ることができる。通知の内容には、機器
技術概要と課題への対応を解説する。 内の部品の性能劣化や配管・周辺環境の
・運転実績…農 家が遠隔で自動運転実績の参照やダウ 異常など、要因の仕分けが含まれるため、
ンロードができる。例えば灌水電磁弁の 復旧作業や初動調査を効率化する。
場合、作動日時・条件、灌水時間・灌水量
の履歴を参照(Fig. 6)でき、これを農作業 <課題への対応>
記録や分析に使用できる。 機器の状態変化を農家やサービス担当者へ通知する
ため、機器からクラウドに送信される大量のリアルタ
イムデータを、途切れることなく仕分けし、通知メー
ルを配信する仕組みや外部システムにデータ連携する
仕組みが必要となる。ここで重視する点はデータの保
全性であり、高負荷や障害時でもデータが消失しない
性能をイベント駆動という方式の組み合わせにより実
現した(Fig. 8)。これにより、異常通知などの重要な状
態変化も確実に連携することができる。
8 CKD 技報 2022 Vol.8
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【巻内特集】 農業分野機器における遠隔制御・監視技術の確立
うことが分かった。また、実際の灌水量に基づいて灌水
量や液肥量の設定を調整することができ、農作物に使
用する水や肥料の省資源化にもつなげることができた。
4-3 成果のまとめ
遠隔制御と制御実績の見える化の成果から、以下が
有用な点として挙げられる。
・スマートフォンで状態が分かり、操作ができる
・運転実績が参照でき、ファイル保存ができる
・実測された灌水量が分かり、分析に役立つ
Fig. 8 イベント駆動の組み合わせによるデータ連携
・実績に基づき遠隔で設定を調整できる
これらの実現により、農家の方々に労力削減・品質向
運転実績やメンテナンス情報を収集し、クラウド内 上・省資源化といった価値の提供が可能になった。
にデータ蓄積する仕組みは、データレイクという方式
で構築した。これは、データを自由構造で保存するこ 5 おわりに
とで、デバイスから送信される様々なプロトコル、
フォーマットのデータを必要に応じて変換・整形・再保 スマート農業の将来としては、蓄積したノウハウや
存し、柔軟にデータの見える化を行う方式である。こ AIによる完全自動運転がある。当社は、それらにも適
の方式にすることで、新たな分析機能の追加、スケー 用できる技術を構築し、効率化を進め、農業の自動化
リング(規模の拡張)、障害復旧などに対応しやすくな と環境負荷低減に貢献していく。
り、安価なクラウドストレージが活用できるため、低
コストでクラウドが運用できる。
4 成果と考察
実証実験の中で農家や研究機関の方に様々な意見を
頂いた。それらの意見を踏まえ、遠隔制御と制御実績
の見える化について成果と考察を記す。
4-1 遠隔制御について
遠隔制御については、通信などの問題で農作物に影
響が出ることへの心配が大きく、異常があった場合に
メール通知やスマートフォンで状態が分かる点は重要
という意見を頂いた。成果事例として、農家が異なる
作業に従事しながら、スマートフォンでビニールハウ
スの窓を開閉することで労働力を削減し、豪雨災害の
際には、大雨の中、遠隔から現地の窓閉めで対処し、作
物の水濡れ被害を防ぐことができた。また、気候変化
に合わせて自動運転の追加や停止を遠隔設定すること 執筆者プロフィール
で、水のやり過ぎや不足を解消し、省資源化と作物の
品質向上の両方を実現できた。
4-2 制御実績の見える化について
制御実績の見える化により、灌水の自動運転実績を
参照しファイル保存できることは、農家から非常に高
い評価を頂いた。灌水量などの数値データは育成状況
と合わせて記録に残し改善に生かすことが大事だが、 小久保 純一 Junichi Kokubo
これまでは、予定通り動いたものと仮定して、推測の 機器事業本部
灌水量を記録するしかなかった。それに対して、1回ご Components Business Division
との実際の灌水量が分かる点がデータとして有用とい
CKD 技報 2022 Vol.8 9
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03_活性炭フィルタのシロキサン除去性能評価[12-16]
巻内特集 テーマ「環境」
活性炭フィルタのシロキサン除去性能評価
Evaluation on the Performance of Siloxane Removal in Activated
Carbon Filters
德永 麻里 Mari Tokunaga 余語 敏文 Toshifumi Yogo 近藤 佳織 Kaori Kondoh
近年、各種業界において、製造工程や製造機器のクリーン度アップが求められている。当社ではお客様のニーズに
応えるべく、半導体製造工程向け薬液・薬ガスバルブ、食品製造工程向け抗菌・除菌フィルタなど、様々なクリーン
機器を製造している。
これらの機器のクリーン度を低下させる原因となる汚染物質には種々あるが、有機汚染物質のひとつにシロキサ
ンがある。シロキサンにより機器に不具合が発生すると、本来の機器寿命を大きく損ない、短期故障につながる。機
器をより良い環境で使用することで、故障を防ぐことができ、機器交換に伴うライン停止工数、費用を減らすことが
できる。さらに、機器の故障を減らすことで、産業廃棄物削減となり、環境保全にもつながる。
本稿では活性炭フィルタを利用した、圧縮エア中のシロキサン除去性能評価について紹介する。
In recent years, there has been a demand in various industries to improve the cleanliness of
manufacturing processes and manufacturing equipment. To meet the needs of the customers, CKD
manufactures various clean equipment such as chemical liquid and gas valves for semiconductor
manufacturing processes and antibacterial and sterilization filters for food manufacturing processes.
There are a variety of pollutants that can cause the cleanliness of such equipment to deteriorate, and
one of the organic pollutants is siloxane. When a piece of equipment malfunctions due to siloxane, the
original service life of the equipment is greatly impaired, which leads to a breakdown in a short period of
time. However, by using the equipment in a better environment, breakdowns can be prevented, and the
man-hours and costs required to stop the line for equipment replacement can be reduced. Furthermore,
reducing equipment breakdowns reduces industrial waste and thereby leads to environmental protection.
This paper presents an evaluation on the performance of activated carbon filters in removing siloxane
from compressed air.
1 はじめに
シロキサンは、車用ワックスや化粧品といった生活
用品から、ゴム・プラスチック用離型剤、消泡剤といっ
た産業用製品にも含まれている、ごくありふれた化学
物質である。またシリコーンオイル、シリコーンゴム、
コーキング剤などは、シロキサンそのものが主成分で
あり、様々な用途に使用されている。
しかし、生産工程や製造機器においては、シロキサ Fig. 1 シロキサンの構造式
ンはときに不具合を起こすため、シロキサンを除去す
ることが望ましい。本稿ではシロキサンの特性、不具 Fig. 1に示すようにシロキサンには鎖状、環状があ
合例、及び活性炭フィルタを利用した圧縮エア中のシ り、一般的に、鎖状シロキサンはL2(ヘキサメチルジシ
ロキサン除去性能評価について紹介する。 ロキサン)、L3(オクタメチルトリシロキサン)…とL*
で表される。また、環状シロキサンはD3(ヘキサメチ
2 シロキサンについて ルシクロトリシロキサン)、D4(オクタメチルシクロテ
トラシロキサン)…とD*で表される。鎖状、環状いず
2-1 シロキサンとは れも、低分子のシロキサンは沸点が低く揮発しやすい
シロキサンとは、ケイ素(Si)と酸素(O)からなるシ ため、汚染物質として問題になりやすい。
ロキサン結合(Si-O-Si)を主骨格とし、ケイ素に炭素
(C)と水素(H)からなる炭化水素基が結合している化 2-2 シロキサンによる不具合
合物の総称である。シロキサン結合自体は無機化合物 シロキサンは前述の通り一般的にどこにでも使われ
の結合であるが、炭化水素基を持つため、一般的に有 ている化学物質である。それゆえ、環境中に含まれる
機化合物に分類される。 シロキサンによって機器が不具合を起こし、当社でも
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【巻内特集】 活性炭フィルタのシロキサン除去性能評価
問題になることがある。不具合例の一部を次に示す。
2-2-1 不具合例1
シロキサンのガラス化(無機化)により不具合が発生
することがある。シロキサンのガラス化発生メカニズ
ムはFig. 2のように考えられている。
(1)シロキサンが機器の一部分に付着する。
(2)シ ロキサン付着部に熱や物理的なエネルギー
が加わる。
(3)シ ロ キ サ ン が 化 学 変 化 し 、二 酸 化 ケ イ 素
(SiO2)が形成する。
Fig. 3 センサ接点上付着物のSEM-EDS 分析結果
2-2-2 不具合例2
Fig. 2 シロキサンのガラス化 シロキサンは前述のように、生活用品、産業用製品、
ゴム材料やコーキング剤をはじめとし、各種部材中に
存在するため、クリーンルーム環境にも存在する。半
二酸化ケイ素はいわゆるガラスである。センサなど 導体製造工程において、製造環境中や機器にシロキサ
においては、シロキサンから生成した二酸化ケイ素が ンが存在していると、シリコンウェーハに吸着し、汚
電子接点上に蓄積することで、導通がなくなり、接点 染する。これにより、デバイス特性に影響を及ぼし、製
不良が起こることが知られている。また、タービンや 造上のトラブルにつながる可能性がある。
ボイラ配管に蓄積することで、機器の動作不良につな
がることもある。
3 シロキサン「除去性能」評価について
なお、この場合の不具合解析において、当社では
SEM-EDS(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線 シロキサンを除去する方法はいくつかあり、そのひ
分光分析)で元素分析を行っている。SEM-EDSは試料 とつに活性炭などの吸着剤を利用したケミカルフィル
に電子線を照射し、発生した特性X線により元素分析 タがある。ケミカルフィルタはクリーンルームなどの
を行うものである。分析結果から、ケイ素(Si)、酸素(O) 空調設備や、分析装置用のガス精製において使用され
の検出により二酸化ケイ素の接点付着有無を確認す ている。製造工程に使用される圧縮エアラインにシロ
る。Fig.3はセンサ接点上付着物の分析結果例である。 キサン除去フィルタを組み込むことができれば、2-2
項のような不具合を防ぐことができ、機器交換に伴う
ライン停止工数、費用を減らすことができる。さらに、
故障した機器、つまり産業廃棄物を減らすことで、環
境保全にもつながるといったメリットがある。
しかし圧縮エアラインでは、におい取りとしての活性
炭フィルタの実績は多くあるものの、シロキサン除去用
としての使用実績は少ない。また活性炭メーカーでも、
シロキサン吸着についての知見が乏しい上、特に圧縮エ
アの加圧大流量下における評価データは少ない。
そこで今回、インラインでの活性炭によるシロキサ
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ン除去性能について、当社での評価方法の確立、及び について細孔特性が適していると推定した3種の活性
吸着剤の選定を行った。 炭種を選定し、評価に供した。選定した活性炭の細孔
の違いについては、Table 1に示す。
4 活性炭について
Table 1 活性炭の特性比較表
4-1 吸着原理
活性炭などの吸着剤の表面には細孔という微細な穴
が多数存在している。この細孔に、シロキサンや水分、
におい成分など種々の化学物質(吸着質)が物理吸着
(ファンデルワールス力)により吸着する。イメージ図
をFig. 4に示す。
5 評価方法
5-1 試験回路
試験回路の概要をFig. 5に示す。圧縮エア中にシロ
キサンD5が発生するような独自の装置(Fig. 5中のシ
ロキサン発生装置)を作製し、試験回路に組み込んだ。
また、活性炭フィルタへの大流量を確保しつつシロキ
サン量を定量するため、活性炭フィルタ下流を分岐し
たサンプリング回路を独自に構築した。
Fig. 4 吸着剤細孔による吸着イメージ 試験の流れは(1)~(4)の通り、活性炭フィルタで捕
集できたシロキサン量が多いほど、シロキサン捕集管
吸着できる成分は、吸着剤に存在する細孔の特性に のシロキサン量が少なくなる、というものである。
よって決まる。IUPAC(国際純正・応用化学連合)では、
細孔のサイズによって直径2nm以下をミクロ孔、直径
2~50nmをメソ孔、直径50nm以上をマクロ孔と定義
している。また、細孔はアリの巣のように奥行きを持っ
ており、それにより比表面積が大きくなる。
吸着剤はその細孔のサイズ、比表面積、細孔容積、空
隙(活性炭粒同士のスキマ)などにより、どんな化学物
質をどれだけ吸着しやすいか、といった特性が異なる。 Fig. 5 試験回路
4-2 吸着剤の選定 (1)回 路にシロキサンD5を発生させる装置を組み
吸着剤には、タイトルにある活性炭のほか、アルミナ、 込み、シロキサンD5含有エアを生成する。
ゼオライトなどの種類がある。事前試験として、ゼオラ (2)下 流に設置した活性炭A~ Cを組み込んだ活
イトでもシロキサンが吸着除去できることを確認して 性炭フィルタでシロキサンを捕集する。
いる。しかし、ゼオライトは本来、水分の吸着に特化し (3)活 性炭で除去しきれなかったシロキサンが下
た吸着剤のため、水分とシロキサンの除去が競合する。 流に流れる。下流に流れたシロキサンは、サン
つまり、水分が多く含まれる圧縮エアでは水分を優先的 プリング回路に別途活性炭を組み込んだシロ
に吸着してしまい、シロキサンの吸着性能が落ちる可能 キサン捕集管で捕集する。
性があると考え、活性炭による捕集を検討した。 (4)シ ロキサン捕集管に捕集されたシロキサン量
を、分析により評価する。
4-3 活性炭種の選定
4-1項にて示したように、活性炭は細孔のサイズ、 5-2 分析
容積、比表面積、空隙などにより化学物質の吸着特性 分析にはGCMS(ガスクロマトグラフ-質量分析計)
が異なる。よって吸着対象成分(吸着質)としてシロキ を使用した。GCMSとはガス化させた試料中の有機化
サンD4・D5に着目し、その分子径からD4・D5の吸着 合物の定性・定量を行う分析装置である。エア中のシ
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【巻内特集】 活性炭フィルタのシロキサン除去性能評価
ロキサン評価では、エア中の化学物質を捕集・濃縮す 6 評価結果
るための吸着管であるTENAX管などを使用した加熱
脱離 GCMSによる分析が一般的である。しかし、 6-1 加圧下での流量に対するシロキサン除去率
TENAX管を使用すると、ほぼ大気圧下でエアを捕集 圧力0.7MPa下、エア流量を30~700L/minでのシ
する必要があり、エア加圧下での評価が困難となる。 ロキサン除去率を測定した結果をTable 2に示す。活性
本試験では、加圧下で活性炭に吸着したシロキサン 炭Aは30L/minでシロキサン除去率約13%となり、加
を評価したく、溶媒抽出及びGCMSによる分析を実施 圧下でのシロキサン捕集能は低い。活性炭B・Cは
した。シロキサンを吸着した活性炭の一部を、適切な 700L/minまでシロキサン除去率98%以上と安定して
溶媒で一定時間抽出し、その抽出液をGCMSにて分析 高く、加圧下でもシロキサンが捕集できた。活性炭B・C
している。Fig. 6に溶媒抽出の流れを示す。また、シロ の特長が、加圧大流量でも高いシロキサン除去率を有
キサンD5のGCMS分析例について、Fig. 7に活性炭 する結果に影響したと考える。
フィルタなしの試験回路、Fig. 8に活性炭フィルタあ
りの試験回路での結果の一例を示す。 Table 2 各活性炭のシロキサン除去率
6-2 活性炭のシロキサン除去率の推移
活性炭B・Cについて、圧力0.7MPa下、エア流量を
175L/minでのシロキサン除去率の推移を測定した結
果をFig. 9に示す。
Fig. 6 溶媒抽出の流れ
シロキサン除去率において、96%以上の除去率を保持
している時間を比較すると、活性炭Cは活性炭Bの約2
倍、長寿命という結果となった。またシロキサン除去量
においても、活性炭Cは活性炭Bと比べ、約2倍となった。
Fig. 7 活性炭フィルタなし試験回路でのシロキサンD5 分析例
Fig. 9 試験時間とシロキサン除去率の推移
7 おわりに
Fig. 8 活性炭フィルタあり試験回路でのシロキサンD5 分析例 シロキサン発生工程から捕集工程、分析工程までの
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評価方法を確立した。また、活性炭A~ Cのシロキサン
除去性能を評価した結果、活性炭Cが加圧下でのシロ
キサン 除 去 性 能 が もっとも高 いことが わかった
(Table 3)。
Table 3 活性炭の評価結果
今後、本稿にて紹介した基礎的な評価方法及び結果
を基に、シロキサン吸着に影響する要因、吸着メカニ
ズムと吸着剤の物性をさらに検証して、シロキサンの
除去技術を高めていく。そして、シロキサンによる機
器の不具合、故障の防止につとめていく所存である。
執筆者プロフィール
德永 麻里 Mari Tokunaga 余語 敏文 Toshifumi Yogo 近藤 佳織 Kaori Kondoh
機器事業本部 機器事業本部 機器事業本部
Components Business Division Components Business Division Components Business Division
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04_レタス栽培に於ける風によるチップバーン抑制効果[17-22]
巻内特集 テーマ「環境」
レタス栽培に於ける風によるチップバーン抑制効果
Tipburn-suppression by wind in lettuce cultivation
坂 幸憲 Yukinori Saka
完全人工光型植物工場では、照明器具を蛍光灯から植物の育成に適したLED照明に変更することでレタスの栽培
日数の短縮を追求している。しかし、この成長促進で時折レタスのチップバーンが発生し、商品価値を損失している。
植物工場でレタスを効率的に生産するためには、この問題の解決が必要とされている。本稿では、LED照明下での
レタス栽培に於けるチップバーンを抑制する新しい空調制御システムを提案する。そして「風あり」と「風なし」の栽
培試験の結果から、新しい空調制御によるチップバーン抑制効果を明らかにする。
In artificial-light-type plant factories, changing the lighting equipment from fluorescent light to LED light, which
optimized for plantgrowth, can shorten cultivation period of lettuce. However, growth promotion often cause
tipburn in lettuce, and result in loss ofmarketability.
It is necessary to solve this problem for efficient lettuce production in plant factories. In this research, we
propose a newblast method to suppress tipburn in lettuce grown under the LED light.
Our verification experiments with or without the new blast method showed clear tipburn-suppression effect by
this method.
1 はじめに 2 材料及び方法
完全人工光型植物工場では栽培室内に多段式栽培棚 2-1 個別空調システム
を複数陳列、LED照明で光を制御、空調設備で温湿度、 栽培棚上段に送風機を配置、栽培室内の新鮮な空気
CO2濃度を制御、水耕栽培設備で養液を管理すること を吸い込み、配管ダクトを通して、栽培棚の前面上部
で天候に左右されることなく計画的に野菜を量産して の空気ノズルから栽培植物に向けてストレスなく風を
いる。LED照明技術の進化や栽培棚の構造も多様化、 噴きかける個別 空 調シ ステムの導 入 事 例を示 す
空き倉庫や事務所の空きスペースを活用した植物工場 (Fig. 1)。
建設なども見られ、植物工場市場の拡大は続いている。
照明機材が蛍光灯からLED照明に置き換わり照明機
材からの発熱量は軽減されたが、栽培スペースを抑え
るために多段式栽培棚を導入することが多く、栽培棚の
上段と下段とで温度差が発生。また、生産性を高めるた
め栽培植物を密集して栽培することが多く、栽培植物
が成長すると隣接する栽培植物と密着、軒高もLED照
明に接するくらいに大きくなり、栽培空間の風の流れを
阻害する。栽培室内に於ける温度差や風の流れに関す
る問題は、生産規模拡大と共に表面化することが多く、
安定生産を実現するための課題となっている。高機能
LED照明機器の導入により栽培日数の短縮が可能とは
なったが、時折発生する生育障害に悩まされている。
この課題に対して、大掛かりな設備投資を行わず解 Fig. 1 個別空調システムの導入事例
決する方法として空気ノズルを栽培棚に設置して栽培
植物に向けて強制的に風を噴きかける個別空調システ
ムを開発した。本稿では安定生産を阻害する要因の一
つのチップバーンに注視、導入で得られる風によるチッ
プバーン抑制効果について検証したので報告する。
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2-1-1 空気ノズル るが栽培室内の空気の流れを観測、複数の小孔から噴
空気 OUT き出された空気は互いに干渉、栽培空間で渦をまきな
がら空間全体に拡散(Fig. 4)する様子が確認された。
小孔
エレメント
空気 IN
Fig. 2 空気ノズル
感染症予防で身近になった不織布マスクの素材、不 Fig. 4 栽培空間の空気の流れ
織布を何重にも巻き込み円筒状のパイプ(白色)を成形、
外周をPETシート(黄色)で覆い、PETシートには小孔 サラダナのチップバーン防止効果1)で最適範囲の風
を2列均等に設けることで、パイプの内側からPETシー 速は0.6m/s以上1.0m/s以下程度と報告されている
トの穴を通して空気が流れる空気ノズル(Fig. 2)を製作 が、不織布素材のエレメントを通って最適な風速にコ
した。空気ノズルの両側から空気を供給すると、不織布 ントロールされ噴き出された空気は栽培空間で散乱
素材のパイプ(Fig. 3)で空気中の異物を除去するフィル し、栽培植物の周辺や内葉の中を流れる風となりチッ
タとして機能すると共に、小孔から空気が排出される際 プバーンの発症を抑制する。
の絞り効果も加わり、更に消音機能まで付加され、空気
ノズルの全ての小孔から均一に空気が放出される。 2-2 栽培試験
2-2-1 環境設定
環境シミュレータ装置内(Fig. 5)の温度設定は明期
23℃ /暗期18℃、湿度はなりゆきで、CO2濃度は
1,500ppmに設定、養液濃度はpH6前後、EC1.6 /
3.0 mS/cmに設定した(Fig. 6)。
Fig. 3 不織布素材のパイプ( エレメント) Fig. 5 環境シミュレータ装置
当社は空気圧機器の総合メーカーで、制御機器の安
定動作に欠かせない空気圧フィルタを提供している。
今回、空気圧フィルタのキーパーツであるフィルタエ
レメントをイノベーション、農業分野で植物の育成に
必要な風をコントロールする空気ノズルが誕生した。
2-1-2 栽培棚の空気の流れ
栽培棚の前面上部に設置された空気ノズルには複数
の噴出口があり、一方はLED照明機器に向けて空気が
噴き出され、他方は栽培植物に向けて空気が噴き出さ
れる。スモークマシーンで空気ノズルから噴き出す空
気の流れを見える化して、栽培植物が無い状態ではあ Fig. 6 環境設定
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